WEB図鑑「琵琶湖地域の火山灰」

●火山灰の性質と分析

 火山灰を知るためには、それぞれの火山灰がもっている性質を明らかにする事も重要なポイントです。
 高島沖ボーリングコアにみられる火山灰図鑑では、それぞれの性質がわかるようになっています。これらの性質を明らかにするために“火山灰の分析”を行います。火山灰の分析で行う事は様々なことがあり、それぞれが個々の火山灰の性質を表す指標になります。
 図は、火山灰の分析をする上で必要な処理を示しています。赤字で示したものが、実際に性質を明らかにする分析です。手順は図の通りですので、性質を明らかにするそれぞれの分析について説明します。


鉱物組成
 洗った火山灰粒子を乾燥させて、顕微鏡で見るためにプレパラートをつくります。火山灰粒子をバルサムや樹脂をつかってプレパラートに封入しま す。そうやってつくったプレパラートを偏光顕微鏡という、鉱物の種類を同定できる顕微鏡で、一粒一粒、粒子を同定していきます。ここで同定するものは、火 山ガラス、石英、長石、重鉱物(後述)に区分して行います。だいたい200粒以上同定したら、その粒数%を計算して、構成鉱物の割合を出します。
火山ガラスの形状
 火山の地下には岩石が高温のために溶けた状態で火山の地下にある“マグマ”があり、火山噴火の時にマグマが地上に出てきます。これが火山灰にな ります。マグマは地中でゆっくり冷やされると鉱物になりますが、地上に放出されて外気にさらされる事で急に冷やされると、ガラスになります。このガラスを 火山から噴出したガラスということで特に“火山ガラス”とよんでいます。私たちの身の回りにあるガラス(窓ガラスなど)も石(鉱物)を溶かして(少し混ぜ ものをして)外気にさらして冷やすので急に冷やされています。火山ガラスは、火山噴火ででてきたマグマが地上で外気にさらされて急に冷やされて固まるの で、身の回りにあるガラスと同じでき方をしているとイメージすることができます。
 身の回りにあるガラスは、冷やすときに人工的にいろんな形につくりますが、火山灰を構成する火山ガラスは、火山噴火の時にその形が自然に決まります。そ れは、多くの場合、火山噴火の時のマグマの状態や、火山噴火の仕方に大きく関係していて、様々な形をしています。その形については、いくつかの区分方法が あります。
 ここの図鑑では、吉川(1976:地質学雑誌,82巻,497-515)に従って、平らな形のH型(扁平型)、泡跡がたくさんあるT型(多孔質型)、そ の中間のC型(中間型)の区分を使っています。なお、吉川(1976)では、これら3つの区分を、それぞれ2つに区分し、それらのどれにも当てはまらない 場合にはその他とする7つに区分する方法が提示されています。
 この性質も、鉱物組成と同様にしてつくったプレパラートを偏光顕微鏡(普通の顕微鏡でもできます)で、一粒一粒、粒子を同定し、200粒以上同定したらその粒数%を計算して、ガラスの形状の割合を出します。
重鉱物組成
 重鉱物とはその名前の通り、重い鉱物です。通常は、比重(ひじゅう)が2.85以上の鉱物を重鉱物といい、それ以下のものは軽鉱物といいます。 火山灰でみられる代表的な重鉱物には、黒雲母、角閃石(ホルンブレンドなど)、斜方輝石、単斜輝石、ジルコン、燐灰石などがあります。光を通さない真っ黒 のもの(やや褐色のものもあります)を不透明鉱物としてまとめています。
 *重鉱物の分離:重鉱物は、多く の火山灰では含有率(含まれる率)が小さいため、比重調整した液体を使って「重液分離」をした後に、重鉱物だけを集めて使います。学校や実習などで行う場 合には、重液分離で使う重液が有害なものが多いために、別の方法を使う方がよいです。正確には重鉱物だけを取り出す方法にはなりませんが、椀がけという方 法を使ったり、磁力の強い磁石(ネオジム磁石など)を使って取り出すという方法があります。磁石を使うのは、重鉱物の多くが磁性の強いものが多い事からで す。
 重鉱物を取り出すと、それを鉱物組成の時と同じ方法で(重鉱物だけの)プレパラートにして、200粒以上の同定を行います。重鉱物の同定については黒川 (1999:地学双書30,地学団体研究会)や、黒川(2005:地学双書36,地学団体研究会)、野尻湖火山灰グループ(2001:地学ハンドブックシ リーズ14,地学団体研究会)が参考になります。
屈折率
 屈折率は、光があるものを通る時に,どれくらい曲げられるか(どれくらい速さが遅くなるか)という率で、火山ガラスや、一部の鉱物について行わ れます。火山ガラスなどの化学成分が比較的簡便に測定できるようになってからは、あまり測定されなくなってきましたが、火山灰の特徴を知る上で重要な指標 とされてきました。
 測定方法は、浸液法、温度変化法、分散法、標準ガラスを使った分散法、などさまざまありますが、基本的には、ある液体にいれた粒子の輪郭が見えなくなる 状態になるように液体の屈折率(または光の波長)を調整して、その時の液体の屈折率(または光の波長も)を測定することで間接的に粒子の屈折率を測定しま す。
 高島沖ボーリングコアにみられる火山灰では、火山ガラス、角閃石、斜方輝石を対象に測定しています。
化学分析
 岩石が高温に溶けた状態のマグマが粒状に冷えて固まった火山灰は岩石と同じような成分でできています。噴出したマグマ(液体だった部分)の成分 をそのまま表しているのは、それが急激に冷やされて固まった火山ガラスです。つまり、火山ガラスの性質を測定することは、噴出したマグマ(の液体だった部 分)の成分とほぼ近いものを知ることになります。
 測定方法は、ICP-MSやEPMAなどいろいろありますが、高島沖ボーリングコアの火山灰で測定したのは、福島大学にあるエネルギー分散型EPMAというものです。

文献
黒川勝己(1999)水底堆積火山灰層の研究法 -野外観察から環境史の復元まで-.地学双書30,地学団体研究会,p147.
黒川勝己(2005)テフラ学入門 -野外観察から地球環境史の復元まで-.地学双書36,地学団体研究会,p205.
野尻湖火山灰グループ(2001)新版 火山灰分析の手引き 双眼実体顕微鏡による火山灰の砂粒分析法.地学ハンドブックシリーズ,14,地学団体研究会,p56.
吉川周作(1976)大阪層群の火山灰層について.地質学雑誌,82,497-515.