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特集

[Ships of Lake Biwa , Hints & schemes of Wood craft ships.]

湖の船―木造船にみる知恵と工夫―

専門学芸員 用田政晴(考古学)

企画展示室のようす(イメージ)

道であり生活の場であった琵琶湖

 今年の7月20日の海の日から11月23日まで、『湖の船・木造船にみる知恵と工夫・』と題した企画展示を開催します。

 琵琶湖に暮らす人びとは、およそ五千年以上前の縄文時代前期には、生活の一環として丸木舟などによる湖上での活動を行っていたようです。琵琶湖がはぐくむ豊かな生産力は、漁業や農業のみならず、小地域ごとに自己完結的な生活文化を生んできました。また琵琶湖は、その位置から東西物流のかなめとして丸子船に代表される船の発達と人びとの活動範囲を広げました。

 これら湖と人間の関わりは、毎日の生活に密着した「生活の場」と人や物の移動による「街道」と位置づけられ、淡水に浮かぶ船そのものにも独自の発達をうながしてきました。

 今回の企画展示では、使う場所や目的にあわせた伝統的な木造船を紹介し、そこに見られる人びとの知恵と工夫に焦点を合わせます。そしてたくさんの船の道具や世界の湖での船の資料と比較しながら、琵琶湖独特の伝統的な木造船の数々を見ていきます。

展示室をとび出した企画展

 博物館の玄関にいたる歩道沿いで、伝統的な船の帆をイメージしたのぼりで企画展示の紹介をします。少しでも多くの人びとに企画展示をのぞいて欲しいという私たちの希望と、みなさんに展示への期待感をもっていただこうという試みです。また、企画展示室からとび出た展示もいくつか用意しました。

琵琶湖周航の船

 博物館のエントランスを入ると大きなホール、ここはアトリウムと呼ばれていますが、ここで来館者全員に大きな漕艇用の船を紹介します。

 「われはウミの子、さすらいの…」とはじまる琵琶湖周航の歌は、みなさんご存じだと思いますが、この琵琶湖周航に使われた船が、展示しているフィックスです。漕ぎ手の座席が動かないので固定席艇、フィックスと呼ばれています。このタイプの船は、今では使われていません。今回、アトリウムの真ん中に置いて、二階のA展示室やB展示室にいたる廊下部分からも、かつて若者が燃えた琵琶湖周航に思いをめぐらしていただこうと思っています。

木造船収集の様子(撮影:用田政晴)

丸子船の帆と断面

 琵琶湖博物館の二階の「人とびわ湖の歴史展示室」では、いつも丸子船の実物を見ていただいています。しかしここではその帆があまりに大きすぎて、いつも少し丸めています。これを今回は、風をいっぱいに受けた状態でアトリウムで紹介します。また、丸子船の名前は、その断面が丸いからだともいわれていますが、帆柱とともに丸子船の断面を復元しました。その説が正しいかどうか、みなさんで判断してみて下さい。

どこかで見た船の展示

 みなさんは三重県鳥羽の「海の博物館」を訪ねられたことがありますか。そこの体育館ほどもある大きな収蔵庫にはたくさんの船が集められており、来館者は高いデッキの上からこれらを見ることができます。もちろん櫓や舵などの船具もあります。

 琵琶湖の船は、海の船ほど種類や形も多くありませんが、よく見ると多くの違いに気がつきます。琵琶湖博物館では、開館前からこのかさばる船をいくつか集めてきました。船の櫓や舵も百点近く所蔵しています。これらを「海の博物館」のように展示してみました。そしてこれらの船をよく見ると修理したあとや使い減りした痕跡を発見することができます。それぞれの部分にもスポットをあてて紹介しようと思っています。

丸木舟の宝庫・琵琶湖

 縄文時代や弥生時代には丸木舟が使われていたことは、今や常識になっていますが、この丸木舟を日本で一番多く出土しているのが琵琶湖です。この十数年の間、琵琶湖総合開発に伴い湖岸や湖底を発掘調査する機会が多かったためですが、今回、これらをまとめて展示します。アイヌの丸木舟や日本では弥生時代と呼ばれていたころ、西アジア・ガリラヤ湖に浮かんでいた復元船も並べますので、比較してみるのもおもしろいかも知れません。

民俗学者橋本鉄男先生の書斎

 琵琶湖民俗学の先達・橋本鉄男先生は、琵琶湖博物館の開館に力を注がれましたが、私たちは開館の一週間前に先生を失いました。先生の絶筆原稿は『丸子船物語』と題して出版されていますが、先生は生前に、蔵書は琵琶湖博物館に預けたいとおっしゃっておられました。

 第2企画展示室では、先生の業績を紹介しながら書斎を復元し、琵琶湖民俗研究者の世界にみなさんをご案内します。


橋本鉄男先生(1994年)


橋本鉄男著・用田政晴編『丸子船物語』(サンライズ出版刊)

会 期■ 1999年7月20日(祝)~11月23日(祝)
場 所■ 滋賀県立琵琶湖博物館 企画展示室
観覧料■ 大 人1000円(800円)
大学・高校生800円(650円)
小・中学生500円(400円)
※( )内は20名以上の団体料金です。 常設展もご覧いただけます。

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