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特集

[All fishies are our friends.]

水族展示の裏話―「魚は友だち」

水族飼育員 中本巨樹

 皆さんは、博物館の水族展示についてどのような感想をお持ちですか?「水がきれい」「水槽が大きい」「魚がいっぱい」「かわいい」「気持ち悪い」、中には「おいしそう」なんてのもあるでしょう。水族展示の表側だけを見るとこんな感想が聞かれると思いますが、裏側を見るとどうでしょうか。

 「夏は暑い」「冬は寒い」「通路は狭い」「機械はうるさい」「魚臭い」といった、とても楽しい感想をもてるような所ではありません。しかし裏側は魚の産卵や負傷した魚の治療など、さまざまな感動を味わうことができる所でもあるのです。裏側では現在14名の水族飼育員が一日8名づつ交代で働いています。みんな若く、魚の飼育で失敗することもありますが、生き物が大好きでやる気にあふれています。ここでは、展示室から見ることのできない私たち水族飼育員の仕事を紹介します。

大きな水槽には潜って清掃します

■小さな命に目を向けてみると

 琵琶湖博物館は淡水魚をはじめ、水鳥、水生昆虫などいろいろな生き物を200種類余、約17,000点も飼育しています。その中でも、生息環境の悪化や外来種の侵入の影響などで、絶滅の危機に瀕している魚や水生昆虫の繁殖に力を入れています。飼育の仕事をしていると、いろんな魚の産卵や卵のふ化の瞬間などの貴重なシーンを多く見ることができ、飼育員になって良かったと思います。そこで、この感動を多くの人に伝えられないかと、トピック水槽を設置して、繁殖した魚の卵や稚魚を紹介しています。裏側の水槽だけでなく、展示水槽でもオヤニラミ(スズキの仲間)やゼニタナゴ(タナゴの仲間)などが繁殖しています。アフリカのタンガニーカ湖の魚を展示した水槽では、常にシクリッドの仲間が繁殖しているのですが、この水槽は大きく、しかも稚魚が小さいため、ほとんどのお客様はそんなことに気づかれません。飼育員が魚の繁殖している水槽の近くを通りかかったときには、声をおかけしますので、ゆっくりと繁殖や子育ての様子をご覧ください。


バックヤード(展示の裏側)の水槽の掃除は、私たちの日課です

潜水通話交流では、水槽の中から皆さんとお会いできます

■魚といっしょに潜っています

 「生きた魚がそこにいる」というだけで十分魅力的だと思いますが、私たち水族飼育員が水槽に潜っての掃除も、お客様には興味津々のようです。掃除している水槽の前は、いつも黒山の人だかりとなります。本来、魚が泳いでいるはずの水槽に人間が入っているのですから、みなさん驚かれるようです。よく「魚と一緒に泳げてうらやましい」という声を耳にしますが、実際には水槽の汚れを落とすために壁やガラスに張り付いて掃除をしているので、魚を見る余裕なんてほとんどありません。また、夏には水温も高いので潜っていても快適なのですが、冬になると屋外の水槽では水温が約6度まで下がり、長時間の作業になると寒さで体が凍えてしまいます。夏には活動的な魚たちが、冬になるとほとんど動かずじっとしている理由が、一緒に潜ってみて、初めてわかったような気がしました。そしてまた、こんなきびしい環境下で生きていける魚たちのたくましさもわかってきました。


病気にかかった魚を検査、病因を割り出します

■魚のお医者さん

 魚を飼育していると、病気にかかって死んでしまうこともあります。私たちは、生き物の尊い命を預かる仕事をしているわけですから、治療のために出来る限りの努力を惜しみません。病気の魚は、別の水槽に移し治療をします。魚の病気の治療はとても難しいのですが、顕微鏡で寄生虫の有無を調べたり、細菌検査をして病気の原因を割り出し、駆除剤や抗生生物など薬の投与やビタミンなどの栄養補給、大きな魚などには外科手術などを施すこともあります。病気が治り、魚がまた元気に泳ぎ回ってくれる日を思い浮かべながら、魚の治療を行っています。


餌のアジを三枚におろしています。飼育している魚の性質や食性に合わせ、さらに切ります。

夕方調理した餌を魚たちに与えます

■裏側にいますが…

 私たちは、一日のほとんどを水族館の裏側で過ごし、表側に出ることはほとんどありません。しかし、ときどき「潜水通話」や「チョウザメやカエルへの給餌」など、お客様との交流活動で、皆さんとお会いできることがあります。「潜水通話」では飼育員がトンネル水槽に潜って水中会話装置を使い、水中での水圧の実験や、水槽に泳いでいる魚の説明、魚への餌やりなどを行っています。「チョウザメやカエルへの給餌」では、飼育員が餌をやりながら、チョウザメやカエルのユニークな生態について説明します。ほかにも、「博物館探検…水族展示の舞台裏」(申し込み要)や「水族展示の裏の通り抜け」(申し込み不要)などの交流活動もおこなっています。皆さんぜひご参加ください。飼育員一同皆さんにお会いできることを楽しみにしています。

 私たちの飼育する魚たちを見ていただき、自然や命の尊さについて考えていただく機会となれば、飼育員にとってこれ以上嬉しいことはありません。これからも、水中の生き物たちのすばらしさを紹介できる水族展示にするために頑張っていきます。

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