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 Goin' at Field! フィールドへ出よう!

田んぼをのぞいてみよう

―フィールドレポーターによる生きもの調査

主任学芸員 楠岡 泰(微生物生態学)

「あなたは田んぼを見たことがありますか?」とおたずねしたら、ほとんど全員の方が「ある」とお答えになるでしょう。しかし、「あなたは田んぼの水の中をのぞいたことがありますか?」とおたずねしたらどれほどの方が「ある」とお答えになるでしょうか。琵琶湖博物館では、1999年春に「フィールドレポーター」による「田んぼの生きもの調査」を行いました。ここにその活動と調査結果を紹介します。

「フィールドレポーター」ってなに?

 博物館では各地の生きもや環境、生活や風習などさまざまな身近な情報を博物館によせていただくフィールドレポーターを毎年募集しており、1999年度は125名の方に参加していただきました。フィールドレポーターには、地域の情報をお寄せいただける方でしたら、どなたでもなれます。これまで、タンポポやホタルなど、生きものの分布調査のほか、案山子(かかし)、お雑煮、お地蔵様の調査なども行ってきました。お寄せいただいた情報は博物館の展示、資料、研究、出版物などにも活用させていただいております。

「田んぼの生きもの調査」でなにをしらべたか?

 田んぼに水が入る4月下旬から水がなくなる6月下旬まで、田んぼにすむエビ類や貝類を中心に県内各地で分布調査を行いました。田んぼの水の中にすむ生きものの中には分類が難しいものもあるので、少しかわいそうですが、採った生きものを小さな箱に入れて、博物館に送っていただきました。送っていただいた標本を学芸職員が確認したところ、多くの方が正確に分類していましが、中には、カタツムリの一種ウスカワマイマイとマルタニシを間違えた方もいらっしゃいました。標本のほかに、一緒にすんでいた他の動物の状況やその田んぼが圃場整備されているかなど周りの環境についての情報も送っていただきました。

「田んぼの生きもの調査」でわかったこと

 今回の調査で6種類のエビ類と14種類の貝類が滋賀県内の田んぼおよび周辺水路から見つかりました。ここでは田んぼのエビ類についてわかったことを紹介します。

田んぼのエビ類の生活史

 田んぼにすむエビ類は私たちが食べるクルマエビなどとは異なり、大型鰓脚類(さいきゃくるい)という別のグループに属しています。この仲間の特徴は、耐久卵と呼ばれる乾燥に耐える卵を産むことです。この卵は春に田んぼに水が入ると数日でふ化し、幼生は急速に成長し、1カ月ぐらいでおとなになり、産卵します。そして、卵は次に田んぼに水が入るまで泥の中でじっと耐えるのです。

ホウネンエビ(写真撮影:秋山廣光)
大きさは1.5~2cm。たくさんある脚を上にして逆さまの姿勢で表面近くを泳いでいます。透明で見つけにくいエビですが、赤い尾があり、植物プランクトンを食べるので腸の中が緑に見えるのが特徴です。昔から日本の田んぼにすんでおり、このエビが田んぼに発生すると豊作になると言われたそうです。
アメリカカブトエビ(写真撮影:秋山廣光)
大きさは2~3.5cm。甲らがあり、ひげが生えたオタマジャクシのような形をしています。泥の中にすむ小さな動物を食べるために泥の表面をよくひっかきまわします。このため、芽生えたばかりの雑草は定着できません。カブトエビのことを「田の草取り虫」と呼ぶこともあるそうです。
カイエビ(写真撮影:秋山廣光)
大きさは0.5~1.5cm。じっとしている時に見ると二枚貝のように見えます。泥の表面や中の生物を食べて成長するので、泥の表面を活発に泳ぎ回ります。カイエビを含む「カイエビのなかま」は、いまのところ日本では6種類見つかっています。そのうち4種類が滋賀県に生息していることが今回の調査でわかりました。(カイエビ、タマカイエビ、ヒメカイエビの一種、トゲカイエビ)

田んぼの環境とエビ類の関係

 フィールドレポーターの方にお送りいただいた情報を整理すると、1件を除いて、エビ類はすべて冬に田んぼの土が乾燥する「乾田」から見つかりました。

 圃場整備とエビ類との関係を見ると、ヒメカイエビは圃場整備をしていない田んぼでしか見つかりませんでしたが、他のエビ類では圃場整備の有無と出現との間にははっきりとした関係は見られませんでした。今後圃場整備により乾田化が進むと、エビ類の分布が広がる可能性があると考えられます。

田んぼのエビ類はなぜ滋賀県北部に分布しないの?

 滋賀県の南部と北部の違いを考えるとまず思い浮かぶのが積雪量の違いです。今回の調査でエビ類には乾田が必要なことがわかりました。冬、雪におおわれる田んぼでは、じめじめし過ぎているため、卵が冬を越せないのかもしれません。今後詳しい調査をする必要があります。


調査報告のひとコマ

フィールド観察はとても楽しい!

 今回の調査で「田んぼの水の中にこんなに多くの生きものがすんでいるなんて知らなかった」という意見を、多くのレポーターの方からお聞きしました。毎日見ている身近な環境でも新しい発見はいくらでもあります。今年も田んぼの生きもの調査を行っています。あなたもフィールドレポーターになって参加しませんか。関心をお持ちの方は琵琶湖博物館フィールドレポーター係までお問い合わせください。

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