学芸員 木田千代美 (古生物学:植物)
例えば、琵琶湖博物館の自然史展示の「ゾウのいる森」コーナーは、今から約一八〇万年前の環境を復元したジオラマです。当時は、大きくて深い湖はなく、沼や湿地など沼沢地が広がっていました。そこには、生きた化石で有名なメタセコイアが森林を形成し、アケボノゾウやシカが生息するという現在とはまったく異なった世界が広がっていたと考えられます。
このような環境をわかりやすく伝えるには、ジオラマという展示手法が最適です。来館者は、実物大のサイズで再現された展示空間を通り抜ける時、一八〇万年前の世界に、タイムスリップしたような錯覚を受けます。
今回は、「ゾウのいる森」のジオラマができるまでを紹介したいと思います。
展示物づくり
例えば、今から約八〇万年前に日本から姿を消したメタセコイアとスイショウは、果たしていっしょに林を形成していたのだろうか? など、断定が難しいこともあるからです。
■アケボノゾウの復元 アケボノゾウは、兵庫県明石市から発掘された骨格化石をもとに、筋肉をつけて復元されました。レプリカ(模型)製作では、まず骨組みをつくり、粘土で肉づけした模型をつくります。これを型どりし、型に樹脂を流し込んで成形した後、着色して完成させます。アケボノゾウの肉つきの復元は、これまでおこなわれたことがなく、日本で初めての作業となりました。
■植物の製作 ジオラマの植物は、本物を乾燥させたものとレプリカ(模型)を使用しています。メタセコイアとスイショウは、日本ではすでに絶滅しており、大阪市立大学付属植物園で幹の型どりをさせていただき、銅板の筒に樹脂でつくった樹皮を張り付けています。ハンノキやヤナギの木は、大津市真野佐川で採集した実物です。
樹木の葉や草本類は、シルク製の樹脂でできています。実物の植物を葉、茎、実などの部分にわけて型をとり、樹脂を流し込んで成形し、色づけした後、部分を組み立てます。植物の場合、季節に左右されるため、計画的に敏速に採取しないと製作に何年も歳月を費やしてしまうことになります。
■ジオラマづくり ジオラマの組立は、まず、背景画を壁面に描き、大物の樹木やゾウを配置してから、地面をつくります。次に樹木に枝・葉を取り付け、水辺や陸地に草本類を植えつけます。植物を自然な姿に整えて、落ち葉をまいて樹脂で固めた後、最後に照明や音響装置の調整がおこなわれて、ハイ! できあがり。