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 Goin' at Field! フィールドへ出よう!

アオマツムシ
いているか

総括学芸員 布谷 知夫

 秋は鳴く虫の季節です。残暑のなかにもふと涼しい風がふき、気がつくとかすかな虫の声が聞こえてくるというのが、典型的な日本の秋の訪れかただったのですが、最近は秋になるとかん高い大きな声で、木の上で鳴いている虫がいるのに気がつかれたでしようか。言葉では表現しにくいのですが、リー一、リー一と長くのばした鳴き声をしています。これか最近になって広がっているアオマツムシという昆虫です。


アオマツムシって、どんな虫

 アオマツムシが日本で最初に記録されたのは、東京の赤坂の榎坂のエノキの木で、1898年(明治31年)のことでした。中国から日本に入ってきた帰化昆虫だろうと考えられています。その後少しずつ各地に広がっていったのですが、あまり目立った虫ではなかったようです。ところが1970年代になると、全国の都市部で急速に広がっていることが報告されるようになってきました。そして鳴いている場所が、町中の街路樹や生け垣、公園の木など非常に人の影響の強い場所に限られており、森の中には入ることがないため、都市化を示すことができる昆虫ではないかと考えられていました。

 滋賀県での最初の記録は、当時栗東高校(現在は東大津高校)におられた南尊演さんが1984年9月に発表されています。その時に分布を調査された南さんによれば、当時はすでに大津市ではかなり広がっており、湖西では大津市坂本以南、湖南ではすでに広く見られ、湖東では彦根城などに局所的に分布しているという結果だったそうです。

アオマツムシの調査をよびかけました

 1993年の秋、このアオマツムシが県内のどこまで分布を広げているかを調査しました。この年の春にはタンポポの分布を県内の多くの方の協力を得て調査していましたので、その報告書をタンポポ調査参加者に送り、あわせてアオマツムシが近くで鳴いているかどうかを調べることをよびかけました。

 調査は簡単です。秋の鳴く虫で木の上で、あの独特のかん高い声で鳴いている虫は、アオマツムシ以外にはないでしよう。鳴き始めるのはタ方、鳴き終わるのは夜の9時頃といわれています。夜の調査であるために参加がしにくい点はありましたが、700人ほどの方から、アオマツムシが調査場所ごとにいたか、いなかったかが報告されてきました。

メスオス

アオマツムシのメス(左)とオス(右)

アオマツムシ分布調査のメッシュ図 ↓
 アオマツムシがいる  アオマツムシがいない

調査結果をメッシユ図にしてみました

 アオマツムシがいた、という地域は滋賀県全域に広がっており、特に大津市、草津市、彦根市、近江八播市、彦根市、今津町、水口町などの人口密度の高い地域で多く見つけられていることがわかります。この様にアオマツムシは都市域を中心に広がる昆虫で、最近になって滋賀県でもますます広がっているらしいことはわかりました。ただし、人が多い場所で見つけられているということは調査をしている人が多い、ということの反映でもあるので、結論は難しい面がありますが、少なくとも町中ではいる、ということと、湖北などではいないという報告がかなり多いことからも、町中を中心に広がっているといってもかまわないように思います。

留守番電話はアオマツムシとなじまない

 このような面白い調査結果が得られましたが、実は調査の過程では大きな騒ぎがありました。各地で行われてきたセミの鳴き声調査で、鳴き声を確認するために留守番電話をセットして、調査参加者に鳴き声を確認してもらうという方法が使われていました。アオマツムシの調査は今回初めての例なのですか、セミと同じように留守番電話で鳴き声を聞いてもらえるようにしようとしたのです。調査依頼用紙に留守番電話の事を書いて配布し、レンタルで留守番電話をセットして、調査開始の二日前に録音をしようとしてみたところ、何度やってみてもアオマツムシの声は録音ができないことがわかりました。留守番電話は人間の声をきれいに録音するために、波長の高すぎる音を自動的にカットしてしまうように作られているらしいのです。もう宣伝はしてしまっていたのでおおあわての末、電話に名前と住所を吹込んでもらって、後でアオマツムシの声を録音したテープを郵送することにしました。初めての調査でば何が起こるか分からないと思ったものです。

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