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特集

[collection and classification with information system]

資料整備と情報システム

文:学芸員(地球物理学)戸田 孝

図:情報処理 濱尾 研児

 博物館といえば、展示室の展示を連想する人も多いでしょう。確かに、展示は「博物館の顔」とも言うべきもので、その博物館が来館者の方々に伝えようと思うことを凝縮したものです。でも、顔はあくまで顔に過ぎません。人間の顔も、その裏にいろいろな内臓があって、それぞれの役割を果しているからこそ、いろいろな表情を他の人に伝えることができます。博物館も同じことで、展示の「舞台裏」にいろいろな機能が働いているのです。

 読者の中には、琵琶湖博物館行事の「博物館探検」に参加して、「舞台裏」である収蔵庫や水族水槽などを見学された方もいらっしゃると思います。ここでは、このような舞台裏を少し違った角度から見てみましょう。

【資料整備と資料カード】

 博物館が博物館であるために欠かせないものの一つに、「博物館資料」というものがあります。博物館はそれぞれ専門とする分野にかかわる資料を収集し、整理収蔵します。そして、この資料を使って各分野の研究を進め、あるいはこの資料の中から来館者の方々に伝えるのにふさわしいものを選んで展示に利用するわけです。琵琶湖博物館でも、琵琶湖にかかわる現生生物や古生物の標本、あるいは歴史資料(古文書、民俗資料、考古出土物)などのいろいろな資料を、地下の収蔵庫に整理収蔵しています。整理収蔵されている資料のことを「収蔵品」とも呼びます。

 さて、このように資料を整理収蔵し、それを利用していくためには何が必要でしょうか? それは、どのような資料がどんな状態でどこにあるのかを調べる手段です。広大な収蔵庫の中で資料の実物を探し回るのは効率的ではありませんし、資料を痛める原因にもなります。それに、資料を利用するには、資料が元々あった場所(分野によって「産出地」「採集地」などと呼び分けます)や資料を得た日時と状況など、資料の「付随情報」と呼ばれるものも必要です。

 そこで、従来の博物館では、どんな資料がどこにあって、その資料の付随情報はどんなものかということを、資料一つにつき一枚のカードにまとめて記した「資料カード」というものを整備してきました。資料を利用したいと思ったら、まずこのカードを見てどんな資料があるのかを探します。そして、実際に使いたいと思う資料を見つけたら収蔵庫へ行って取ってくる、あるいは見てくることになります。

収蔵品データベースを利用した資料整理・利用の流れ

【資料カードの電子化】

 でも、何千何万とあるカードの中から目的のものを探すのは時間もかかりますし、探し漏れも起るでしょう。そこで、この資料カードを電子化して「収蔵品データベース」を作ることが考え出されました。電子化してコンピュータに検索させれば、時間もかかりませんし、確実に探し出せます(但し、元のデータに誤記が無ければという条件つきですが……)

 それに、紙のカードを検索利用するには、そのカードがある場所へ行かねばなりませんが、電子化しておけばコンピュータ同志のネットワークを通して、別の場所から検索することもできます。例えば、ネットワークを館内に張り巡らせれば、収蔵庫や研究室に居ながら検索できます。標本を整理した結果をその場で入力すれば、それをスグに利用することもできます。また、通信回線につなげば、遠くの採集地や、研究協力をしている他の博物館などからも検索できます。

 二〇年ほど前には、このようなことをするには大型計算機を使った高価で大袈裟なシステムが必要でしたが、ここ一〇年以内にパソコンとLAN(ローカル・エリア・ネットワーク)を利用して手軽に実現できるようになってきました。

【琵琶湖博物館の情報システム】

 琵琶湖博物館開設準備室が大津市打出浜で活動を始めた一九九二年という時期は、ちょうどパソコンの性能がかつての大型計算機を追い抜き、同時にLANが実用的に手軽に使えるようになってきたころです。そこで、琵琶湖博物館では最初から電子化された収蔵品データベースを整備して行くことにしました。そして、準備室にデータベースを管理するサーバパソコンを置き、ネットワークを張り巡らせて(上写真)入力と研究利用を始めました。

 一九九六年に完成した博物館の建物は、最初からネットワークを使うつもりで作ってあるので、必要な配線は天井裏や壁の中に埋まっています。そして、準備室のサーバは、書庫の裏にある計算機室に移し、さらに数台のサーバパソコンを増強して連携させて使っています。

 このシステムを利用して、事務室、研究室、収蔵庫から収蔵品データベースにアクセスして、資料整備を進めています。また、情報センター(図書情報利用室)奥のカウンタで、質問などに答える担当学芸員がデータベースにアクセスできるようにもなっています。さらに、この収蔵品データベースの一部を利用したインターネットの検索ページを、近日中に公開する予定です。

事務室の天井にネットワークの機器を吊り下げ、配線を巡らせる筆者
(1994年2月17日、大津市の博物館準備室にて)

【おわりに】

 博物館に集まるのは、実物資料だけではありません。写真や動画などの画像資料も、琵琶湖地域の今の姿や少し昔の姿を伝える重要な資料です。また、研究を進めるには図書文献資料も欠かせません。それと並んで重要なのは、住民の皆さんから寄せられる「身近な環境」についての報告などです。また、資料情報以外にも、皆さんにお伝えしたい、行事や展示などの案内情報もあります。

 琵琶湖博物館では、このような情報も情報システムで扱っていますが、その話をするには紙幅が足りないようです。また別の機会にしたいと思います。

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