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特集

里 山

布谷和夫(植物生態学)





里山と雑木林との違い

 「里山」とは、昔は農用林とよばれ、集落のまわりにあって、日常的にマキやシバを取り、落ち葉を集めた林のことで、このような林から得られる燃料や肥料によって集落のくらしが維持されてきたのです。最近はその林だけでなく、セットとなっている集落と田んぼ、ため池や水路をすべて含めて里山と呼ぶことが多いようです。

 里山とよく混同して使われる言葉に「雑木林」があります。雑木林とは周期的に伐採してマキを取り、落ち葉かきをし、シバを取る林という意味で使われていますから、里山とはまったく同じ林をさしていることになります。いったい里山と雑木林とはなにが違うのでしょうか。





文学で使われるようになった雑木林

 里山とは比較的最近になって使われるようになった言葉で、集落のくらしと結びついて利用される林のことを一般的にさしています。ところが雑木林はそうではないようです。もともと日本の伝統的な美意識としては、林といえばアカマツ林をさしていて、落葉樹の林というものはまったく意識がされていませんでした。

 明治の中ごろになって、徳富蘆花や国木田独歩などの文学者がヨーロッパやロシア文学の影響をうけて落葉樹の林を取り上げてその美しさを紹介し、武蔵野をその舞台としたのです。ところが東京の武蔵野という1地域の林を典型として取り上げたために、同じような利用の仕方をしている林をすべて雑木林と呼ぶようになってしまったのだろうと思います。







全国各地の里山

 実際には、くらしに利用するために活用している落葉樹林のようすは、各地域によってかなり違うのです。関東の典型的な雑木林は、まず平坦地の林です。秋の落葉のあと、1枚も残さず落ち葉を集め、低木を刈ってシバとします。こうしていずれマキとして使う落葉高木以外にはまったく何もない明るい林が維持されるのです。

 それに対して関西の林では、林は傾斜面にあり、また落葉樹の中にアカマツが混じっています。一般に葉っぱ1枚も残さないというような管理はしません。アカマツは落葉を焚き付けに、マキは高温で燃える燃料として使っています。関西の里山は関東の雑木林のような整然とした明るい林にはなりません。

 九州あたりでは、里山は常緑広葉樹の林です。伐採した常緑広葉樹が萌芽して、また常緑広葉樹の林ができるのです。逆に東北地方の里山では、たくさんの樹種が入り交じった落葉広葉樹の林ができます。林はその地方の気候と、その林を利用する人びとの利用形態によって姿が変わるのです。





里山のこれから

 現在の里山はマキや落葉の利用がなくなったために、管理がされなくなって荒れ始めています。くらしと結びついて維持されてきた林を今後どのように管理するのかを皆が考えなくてはならないと思います。





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