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●研●究●最●前●線●

消えた獣たちを追って

主任学芸員 高橋啓一(古脊髄動物学)



 日本では10種以上のゾウ化石が発見されていますが、これらは中国大陸にいたゾウたちと大変関係が深いことがわかってきました。古い琵琶湖やその周辺の河川に堆積した古琵琶湖層と、もっと新しい時代の琵琶湖周辺の地層からは、5種類のゾウ化石が発見されています。地層も詳しく調べられた古琵琶湖層は、ゾウ化石の研究には大変よいフィールドといえます。

 ところで、なぜ私がゾウ化石を中心に研究しているかというと、大学生の時にゾウ化石の発掘を何度も経験したことが大きなきっかけとなりました。しばらくは、これは単なる偶然だと思っていたのですが、最近になってゾウ化石が多いのは、少なくとも500万年前以降の日本の哺乳動物相の特徴であるということに気づきました。

 1988年の夏に甲西町の野洲川河床で発見された足跡化石は、全国的にも注目され、その後日本中で足跡化石が発見されるきっかけともなったたいへんな発見でした。昨年、世界的にも著名なオランダの研究者ソンダール博士とフォス博士をこの現場にお連れしたとき、夕焼けに照らされたメタセコイアの化石林と、そのなかを点々とつづくゾウ足跡化石を見て、「私は世界中のいろいろな場所にいったが、このようなすばらしいところは初めてだ」といった言葉は印象的でした。その河原に残された足跡化石は、調査範囲だけでもゾウ類が130個、偶蹄類(シカと思われる)が1,605個ありましたが、それ以外の足跡化石は食肉類の疑いのあるもの1個だけでした。


 このような傾向は、古琵琶湖層の足跡化石産地約30ヶ所でも、また全国の同時代の産地をみても同様の傾向にあります。足跡ばかりではなく、骨の化石をみてもゾウとシカばかりが多いのがめだちます。きっとこれは、この時代にゾウとシカがほんとうに多い動物相であったにちがいありません。

 同じ時代の中国大陸では、もっとさまざまな動物たちの化石が発見されているのに、なぜゾウとシカが多い動物相ができたのでしょうか。それは、おそらく中国大陸ではさまざまな気候とそれに伴う豊富な植生があったのに対して、日本列島では森林環境がつづいたことと島国の状態であったことが関係しているのでしょう。でも、まだほんとうの答えは見つけていません。古琵琶湖層群の足跡調査を地元の人たちとやりながら、その答えを考えているところです。





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