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ヒガンバナ
彼岸に咲くか

総括学芸員 布谷 知夫




 ヒガンバナといえば秋の風物誌ですが、さてヒガンバナは本当に彼岸に咲くのでしょうか。春に咲くサクラの場合には、気温が上がるにしたがって、南から北へと咲いていく桜前線がよく知られています。滋賀県内の場合には、およそ2週間の時間差があるようです。

 ヒガンバナは秋の花ですから、寒くなるにしたがって北から南に前線が下がってくるのではないだろうか。そんなことを考えて、昨年の秋にヒガンバナの開花日調査を行いました。琵琶湖博物館準備室で行った、タンポポ、アオマツムシ、カタツムリに続く4番目の参加型生物調査です。

 調査の方法は、「いつも通っている道などで、初めて咲きだしたのに気がついた場所と日を教えてもらう」というものです。



■調査の結果

 1,800人の方からの情報をいただきました。一番早かった開花日の報告は9月 2日、大津市で2カ所、栗東町で1カ所、合計 3カ所からあり、一番遅かったものは10月 4日、栗東町でした。開花日が集中したのは9月 22日から26日あたりでした。この年の彼岸は20日から26日でしたので、まさしく彼岸を中心にして咲きそろったということになります。

 その日の開花日情報を滋賀県の地図に落とした図を毎日作りました。咲きだした最初のころと彼岸の中日、終わりのころの図を見ていただいて分かるように、開花日の場所的な傾向はまったくないようです。つまり想定していた開花前線にあたるものは、まったくないという結果で、滋賀県のどこでも彼岸のころに咲き始めるということが分かったのです。





■開花のきっかけは?

 滋賀県中どこでも同じように咲き始めるということであれば、一般的な温度や日長などが咲き始めるきっかけになるとはいえません。ヒガンバナはこの時期には葉はなく、地中の球根からいきなり花柄が出てくるので、ひとつの考え方として地温が原因になるのではないかとも思われます。

 ところが各地から送られてきた開花場所の情報を見ると、日向の方が早い、という記録と、逆に日陰が早い、という記録との両方があります。調査後も参加者の方々と意見の交換をしていたのですが、いったい何が開花のきっかけになるのかは今のところは分かっていません。今年の開花ではどうだったでしょうか。





■ヒガンバナの名前

 開花調査では同時に「ヒガンバナを他の名前ではどう呼んでいるか」を教えてもらいました。ヒガンバナは共通名以外で呼ばれている名前が多いことが知られており、名前が多いということは、それだけ生活に密着した植物だということができます。

 今回の調査で教えていただいた名前の数は88もありました。圧倒的に多いのはマンジュシャゲとシビトバナでしたが、形や色からの連想と思われるカジバナ、ヒマツリ、ヤケドバナなどや、墓地に多いということからシニバナ、ソウシキバナ、サンマイバナ、ハカバナなど、毒があることから、ドクバナ、シタマガリなど、また花期に葉がないことからハッカケバナ、ハミズハナミズなどと、いろいろな名前で呼ばれていることが分りました。



■ヒガンバナの利用

 ヒガンバナはもともと救荒植物として飢饉の時に食べるために田んぼの畦に植えられているといわれています。このことはずいぶん多くの方が書いてきて下さいましたが、自分は食べたことがある、という人はおられませんでした。毒がありますが、水にとける毒なので、食べたことのある方がおられてもいいように思い、ちょっと不思議です。食用以外の利用では、シップ薬、ツワリの薬などの薬用のほか、戦時中にデンプンをノリとして使った、冬にフロに入れると暖まる、絹物用のフノリのかわりに使用、種子をまいた上にかぶせる、などの利用例の報告がありました。





琵琶湖博物館では、これからも生物やくらしにかかわる調査をしていく予定です。




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