Go Prev page Go Next page

琵琶湖博物館収蔵品ギャラリー

私の逸品

主任学芸員 中井 克樹(動物生態学担当)

巨大なイケチョウガイ

琵琶湖博物館の建っている烏丸(からすま)半島は、草津市下物(おろしも)町の地先にあります。この下物町にお住まいのFさんが、ちょうど2年ほど前、手荷物をかかえて博物館に来られました。荷をほどいて出てきた巨大な黒い物体を前に、私は驚きのあまり、ほとんど言葉を失いました。

 この黒い物体が、琵琶湖の固有種・イケチョウガイ2個分の貝殻であることはすぐにわかったのですが、問題なのはその大きさ。なにしろ大きい方は、殻長(かくちょう)が31cmにもなるきわめて巨大な貝殻だったからです。小さい方も殻長が21.5cmと十分に大きく、殻のふちに凹みがあるうえ殻の内側からいくつもの真珠が出てきたことから、かつて淡水真珠養殖の筏(いかだ)で飼われていたものと考えられました。他の博物館のコレクションなどをいくつか調べてみましたが、これほど大きなイケチョウガイを収蔵しているとの情報は得られませんでした。(ただ、古くからの旅館では特別の客人をもてなすために、40cm近い大きさのイケチョウガイの貝殻を何枚も絵皿として使っていたのとの噂もあります。大きな貝殻の情報をお持ちの方がおられましたら、ぜひお知らせください。)

 これらの貝殻が見つかったのは、烏丸半島の付け根にある津田江(つだえ)内湖(ないこ)の湖岸。Fさんの話では、ちょうど内湖の水位が下がっていて、水辺を歩いていると貝殻の一部が湖底から出ているのが見えたとのこと。どちらの貝殻も、大部分が泥に埋まっていたためか、殻の内側の真珠層がかなり浸食され、真珠色と褐色の複雑な木目模様を見せていました(下の写真、および表紙写真)。その一方で、表側の黒っぽい殻皮(かくひ)は、生きた貝とほとんど変わらないほど良好に保存されていました。

 イケチョウガイの近縁(きんえん)種は、わが国には生息していませんが、大陸にはいくつもの種類が知られており、琵琶湖を東アジアの歴史のなかで考える上でも重要な貝です。また、この貝は淡水真珠をつくるための母貝(ぼがい)としても有用で、かつては琵琶湖のまわりに点在する多くの内湖でこの貝を使った真珠養殖がさかんに行われていました。しかし、琵琶湖でのイケチョウガイの漁獲量は年々減りつづけ、1992年を最後に漁獲統計からは姿を消してしまいました。いまや琵琶湖の固有種の貝のなかで、もっとも絶滅が心配される種になってしまっているのです。


上が外側、下が内側
一番下に写っているのは30cmのスケール


表紙の写真

(巨大なイケチョウガイの内側)
 通常イケチョウガイの大きさは20cm程度なのですが、「私の逸品」で詳しく解説しているように、貝の大きさは31cmと約1.5倍の大きさで、とてつもなく大きいのもです。
 この貝殻は、館内で展示せず、収蔵庫に保管してあります。

-4-

Go Prev page Go Prev page Go Next page