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特集

[Commercial Fishes of Lake Biwa ―from Net to Table]

湖の魚・漁・食―淡海あれこれ商店街―

企画展担当 松田征也(貝類学)・中藤容子(民俗学)・桑村邦彦(水産学)

 みなさんは琵琶湖の魚を食べたことがありますか? 湖の幸の宝庫である、琵琶湖の近くに住んでいても、まったく口にしたことがない人もいるでしょう。

 7月15日から11月23日まで開催される企画展「湖の魚・漁・食」では、商店街風の空間の中で、一昔前までは当たり前だった、湖の「魚」を「漁」獲し「食」べる暮らしのありさまを見つめ直す材料をたくさん準備しています。ここでその一部をご紹介しましょう。

商店街は琵琶湖の入り口だった

多種多様な琵琶湖の魚たち

 琵琶湖には、現在57種類の魚類と49種類の貝類が生息しています。これだけ多くの魚と貝が住んでいる湖は国内では他にありませんが、その理由には次の二つがあります。一つは、琵琶湖には岩礁、砂浜、内湖、広大な沖合い、深部に存在する冷水帯など多様な環境があるためです。もう一つは、400万年もの琵琶湖の長い歴史の中で、湖内で種が分化したり、陸続きだった頃の大陸から琵琶湖に入り現在に至った固有の種類が多くいるからです。

 しかし近年、昭和30年代からの内湖の埋立や湖岸の整備で琵琶湖をとりまく環境も急激に変化し、魚たちの産卵や稚魚の成育の場が減少してしまいました。また、人為的に持ち込まれたオオクチバスやブルーギルなどの外来魚が大量に繁殖して生態系に大きな影響をもたらし、在来の魚をとりまく環境はとても厳しいものになっています。

漁師の知恵と漁具・漁法

 琵琶湖には(エリ)、簗(ヤナ)、地曳網(ジビキアミ)といった大きなものから、エビタツベやウケなど小さなものまで実に多くの漁具・漁法があります。特に、仕かけて待ってとる漁法が多く、どれも魚の生態をうまく利用し、漁師さんの長い経験のなかで生み出されてきたものです。漁師さんは使い勝手がよく漁獲効率があがるよう、道具に絶えず工夫をこらし、漁具・漁法は今でも進化しつづけていると言えます。こうした漁師の知恵はエリ漁とエビタツベ漁において科学的に裏付けられることも分かりました。実際に使われた漁具が語りかける知恵と工夫とその変化を、展示室でどうぞじっくり見て取って下さい。

本来はホンモロコをとる地曳網も今では外来魚駆除に用いられている

湖魚を使った料理いろいろ

 アユやモロコ、ビワマスといった有名な魚から、なじみの少ないワタカやニゴイまで、琵琶湖の魚は数多く食されています。特に、琵琶湖固有の魚は、独特の料理法とそれをめぐる祭りを生み出し、湖国特有の文化を支えてきました。中でも、琵琶湖固有の魚、ビワマスを使った「アメノイオご飯」と「湖魚のなれずし」と「湖魚の佃煮」は、平成十年六月、県の無形民俗文化財に選択されました。ナレズシは、魚と米、塩、水を材料とした発酵食品で、滋賀県では神事での神饌、直会膳などで、フナをはじめホンモロコ、ドジョウ、ナマズ、ウグイ、雑魚などのナレズシが見られます。特にフナズシは琵琶湖固有のニゴロブナをおもに使い、記録の上では千年以上もの歴史があります。

 こうした伝統料理のほか、オオクチバスやブルーギルを使った新しいアイデア料理の数々もご紹介します。

華やかだった琵琶湖の真珠産業

 琵琶湖水系固有の貝、イケチョウガイは黒く長い卵形をしていますが、内部には真珠層が発達し、美しい輝きをもっていて、淡水真珠の母貝となっています。この貝の養殖ができるようになったのは昭和の初めの頃で、琵琶湖の淡水真珠は多くの人たちの努力により大きな産業に成長しました。しかし、一九八〇年代後半から琵琶湖でのイケチョウガイの成長が著しく悪くなってしまい、真珠産業も衰退してしまいました。イケチョウガイの種を守り真珠養殖産業を再生するための研究が、現在進められています。

百聞は一食に如かず?!

 今回の企画展では、見るだけでなく、聴いたり、味わっていただける機会を設けています。琵琶湖で実際に働いている方々にお話していただいたり、レストラン「にほのうみ」のご協力により、「フナズシ」や「コアユの天ぷら」などをご賞味いただけることになりました。また、ミュージアムショップ「おいでや」では、淡水真珠やフナズシなどの関連商品をご購入いただけます。こうした実際の体験を通じて、これからの二十一世紀の琵琶湖と人々との関わり方について考えてみていただければと思っています。

フナズシを漬けた桶


表紙の写真

(フナズシ)
 知る人ぞ知る滋賀県特産の「フナズシ」です。
 表紙の写真を見ただけで、もう「つばき」が出てきて、「お酒」が欲しいと思った人は「フナズシ通」です。
 写真は、漬け込んだフナズシを薄く切って並べています。黄色い部分はフナの卵です。薄い皮のような部分が魚の腹の身で、背中の部分は漬けてあったのでやせています。まわりの白い粒が、フナと一緒に漬け込んで発酵したご飯の残りです。たくさんの卵を抱いたフナを食べるのですから、たいへん貴重な食べ物です。大皿にきれいに盛られていると、おいしそうですが、発酵させているので匂いも独特で、好き嫌いのはなはだしい食べ物のひとつでしょう。多くの方に一度は試食していただきたい食べ物の一つです。(内藤)
(写真撮影:松田征也)

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