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琵琶湖博物館収蔵品ギャラリー

私の逸品

学芸員 桝永 一宏(水生昆虫学)

アシナガバエ


野外で採集していると「何を採っているのですか?」と聞かれ、「ハエを採っています」と答えると、「ウチの家にたくさんいるから採りにおいで」と決まって言われます。アシナガバエは家にいるようなハエではなく、川や湖沼周辺等の湿った環境に生棲しています。肉食性で小さな昆虫を食べます。メタリックグリーンをした細い体に、すらりと伸びた足、まさにハエ界の貴公子です。

 写真のアシナガバエは「○珍」という目印とともに標本箱に収まっています。他のものにはまだそのようなマークを付けていないので、まさしく私の逸品といえるムシです。高速ジェット機の翼のような翅をしたこのハエにはまだ名前がありません。そう、新種なのです。私が大学4年生のとき奄美大島の湯湾岳で最初に見つけたもので、その後沖縄本島からも発見されました。湯湾岳は毒蛇のハブの生息密度が高いことで有名なところです。それだけ自然が残っているという証でもあるのですが、私は動物の中で唯一ヘビが苦手なのです。このアシナガバエは水辺の植物の葉の上に止まっていることが多く、そのような環境はハブも好きなところです。実際採集しているときにも何回かハブを見かけました。

 鎌状の翅は雄だけで、雌は普通の形をしているので、配偶行動の際に雄はこの翅で雌にアピールしているのでは? と推測しています。このことを明らかにするためには観察に行かなくてはならず、ハブを怖がっていられません。

 現在、このハエを同じように発見した人と共著で論文を書いているところです。いずれこのハエの仲間たちを展示しますので楽しみにしていてくださいね。(体長3.7mm)


表紙の写真

(アシナガバエの翅)
 私の逸品で紹介したアシナガバエの雄翅のプレパラート標本です。長さは4.3mmです。このハエを採集した夜、宿舎で採集品の整理をしていたときには、翅が水気でよれたか、破れたのかなと思っていました。研究室に戻り顕微鏡で観察した際、この曲線の美しさに感動したのを今でも覚えています。アシナガバエの仲間にはこのような変形したものがいくつかありますが、日本ではこれが初めてです。(桝永)
(写真撮影:桝永一宏)

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