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 Goin' at Field! フィールドへ出よう!

湖人たちの祭りを楽しもう!―祭礼から地域の個性を読み解く―

学芸技師 橋本道範(文献史学―日本中世史専攻―)

 チキチン チキチン チキチキチン ヒャー ホイ」。音で聞いていただけないのがほんとうに残念ですが、今年5月5日に守山市杉江町の小津神社の「長刀(なぎなた)まつり」にいってから、このサンヤレというお囃子が体にしみついて、しらずしらず口ずさんでいることがあります。

 琵琶湖地域では、古くからの祭りがそれぞれの地域で暮らす方々、湖人たちによっていまも数多く行われていますが、そのなかで昨年5月5日には中主町五条の兵主(ひょうず)神社の「兵主祭」を、今年5月5日には長刀まつりを、最初から最後までじっくりと拝見させていただくことができました(写真1・2)。これらの祭礼が、いつ、どのように始まったのかはなかなかわからないのですが、例えば、長刀まつりでは長刀振りといって、若者たちが長刀を振り回してアクロバット的な個人技を披露します(写真3)。これは江戸時代の初め(17世紀)に始まった可能性が高いのですが、長刀振りもサンヤレも室町時代(15世紀頃)に流行した風流(ふりゅう)という芸能の流れをくむものです。長い間に変化しているとはいえ、いずれの祭礼もいまから400年以上前の、私たちが中世と呼んでいる時代の後半(鎌倉から戦国時代、13から16世紀)に起源があることは間違いなく、その時代の香りを今なおただよわせているといってよいでしょう。

 祭礼の詳しい紹介は表1のガイドブックなどに譲りたいと思いますが、特に気にとめておいていただきたいのは、兵主祭も長刀まつりも、一つの地区(一つの集落、区とか大字とかいいます)だけの祭りではなく、兵主祭は周辺18地区の、長刀まつりは周辺11地区の共同の祭りであるということです(図1)。こうした複数の地区による共同の祭りを行う神社は、野洲川の下流地域に限ってみても、草津市片岡町の印岐志呂神社、栗東町綣の大宝神社、野洲町三上のご上神社などがあり、琵琶湖地域では決して特別な事例ではありませんでした(もちろん、守山市幸津川町の下新川神社の「すし切りまつり」のように、一つの地区だけで行う祭りも当然あります)。

 しかし、注意深く観察してみると、祭礼のあり方はそれぞれの地域で大きく異なっています。例えば、兵主祭では、どの地区から神輿を出すかが決まっていて、神輿を出す地区と出さない地区とがあります。一方、長刀まつりでは、毎年各地区が順番に当番で神輿をかつぎますが、神輿は必ず小津神社から赤野井町の若宮神社へ行き、そこから帰ってくるなど、湖岸の特定の地区が重要な役割を果たしています。単純に複数の地区が寄り集まったというわけではないのです。

 では、どうしてこんなに違うのでしょうか。それは中世よりこのかた、それぞれの地域で人々がどのように関わりあいながら自然へ働きかけてきたのか、その関わりあい方の違いを反映していると考えられます。とするならば、祭礼がなぜそうした形となったのかを考えることで、それぞれの地域の個性を読み解くことはできないでしょうか。2002年度の企画展示では、各地の祭礼に参加する方々のご協力も仰ぎながら、それぞれの地域の個性を歴史的に探る謎解きに多くの皆さんと一緒に取り組んでみたいと考えています。

写真1:兵主祭

写真2:長刀まつり

写真3:長刀まつり

 いずれの祭りも盛大で驚きましたが、複数の地区が競い合うこともその理由の一つです。長刀振りは芸能の要素が大きいにせよ、地域社会の安定のために武力が必要だった時代においては、その地区の力を地域社会の人々に見せつけるデモンストレーションとなったはずです。現代で例えるならば軍事パレードのような類する機能を果たしていたといってよいでしょう。こうしたところにも中世という時代の香りがただよっています。


図1 兵主祭と長刀まつりの関係地区
 は兵主祭に関わる18地区
は長刀まつりに関わる11地区

表1:湖人たちの祭りを楽しむための主なガイドブック

 今日では祭礼はだんだん休日や祝祭日など同じ日に行われるようになっています。例えば、『滋賀の祭りと伝統行事・100選』では5月5日の祭礼として11の祭りがリストアップされています。したがって、全部を最初から最後まできちんと拝見しようと思うと、11年もかかってしまうことになります。しかも、このリストはあくまで代表的な祭礼にすぎないのです。ですから、私のようにお祭り好きの人間は、毎年、今年はどこの祭りに行こうかと頭を悩ますことになります。また、地域の祭りに参加されている方々は他の地域の祭りを見ることができません。もしひとりで祭礼の研究をしようと思えば、祭りのハシゴをしないといけないでしょう。たいへんです。

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