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琵琶湖博物館収蔵品ギャラリー

私の逸品

学芸技師  大塚 泰介 (陸上生態系学)

諫早干潟のケイソウ


 ケイソウは、肉眼では見えないほど小さな単細胞性の生きものです。湖沼、川、水田、海、湿った土の上、氷の上などのさまざまな場所で、植物と同じように光合成をしてくらしています。ケイソウは、動物プランクトン、昆虫、魚など、いろいろな生きものの餌になっています。生態系を支える重要な「生産者」です。  ケイソウの細胞は、ガラスの殻につつまれています。殻には孔があいていたり、裂け目があったり、突起があったりと、いろいろな構造があり、その様子は種類によって異なります。この構造が、ケイソウを分類するための手がかりになるのです。表紙の写真は、ケイソウの殻の表面を走査型電子顕微鏡で拡大したものです。
 ここでは、私のコレクションの中から、長崎県の諫早干潟でとれたケイソウの一種を紹介します。エスジケイソウ(Gyrosigma)の一種で、長さが0.15mmほどです。ずいぶん小さいと思うかもしれませんが、ケイソウとしてはかなり大きいほうです。このケイソウのサンプルをくれた人の話では、干潟の泥の上で大繁殖して泥を黄色く染めていたそうです。干潟にすむムツゴロウやカニのえさになっていたと思われます。この種類は中国にもいるそうですが、日本ではまだ知られていません。国内では有明海にしかいない、いわゆる準特産種かもしれません。
 このケイソウは1996年に採集されたものですが、1999年に採集地に行ってみると、干潟は草原に変わっていました。皆さんもご存知の、諫早湾干拓事業の結果です。当然、このケイソウもいなくなっていました。果たして、有明海のほかの場所で生き延びているのでしょうか。気がかりです。


表紙の写真
(エスジケイソウ)
 表紙の写真の正解は私の逸品の「エスジケイソウ」です。
 電子顕微鏡で撮影したのでもとの写真は白黒です。表紙の写真は黒色の濃淡を緑色の濃淡に変換して表してみました。

(写真撮影:大塚泰介)

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