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●研●究●最●前●線●

博物館インターネット発信の現状と課題

主任学芸員 戸田  孝(湖沼物理学・博物館情報学)

 博物館には各々の専門分野がありますが、それと並んで「博物館活動はいかにあるべきか」を論ずる「博物館学」の分野も、博物館の重要な研究対象です。  さて、博物館業界でも電子ネットワークの普及が進んでいます。しかし、必ずしも電子情報を充分に利用できているとは限らないという実態もあるようです。このような問題にどう対処するべきかも「博物館学」の研究課題となります。

まずは県内の現状把握から

図1 琵琶湖博物館の表紙ページ
   http://www.lbm.go.jp/

 まず、電子情報発信の現状をきちんと把握する必要があります。手始めに、滋賀県内の博物館に的を絞って、詳しい調査を試みました。
 最初の難関は「県内にいくつ博物館があるか」という問題でした。県内には法律上正式に認定された博物館(相当施設を含む)が19館あります。しかし、他の施設が「博物館」を名乗ることは禁止されていませんし、「資料館」などと名乗りながら博物館として機能している例も多数あります。博物館と呼べるかどうか微妙な施設も少なくありません。そこで、独自の基準を設けて、「この研究では、ここまでを博物館と認める」と決めました。結果は、2000年8月現在でちょうど180館でした。
 そして、各館のどんな情報がインターネット上で公開されているかを調べたところ、87%にあたる156館について、単なる住所録情報を越える情報が公開されていました。そのうち70館について、最も詳細な情報は市町村の「施設情報」や「観光情報」のページにありました(注)。調査時点で60%の市町村が「公式ページ」を有し、観光協会のページなども含めると88%に達していたことが「とりあえず何かの情報が存在する」状況を作り出していたのです。
 しかし、156館中79館について「非常に簡単な紹介」程度の情報しかなかったことにも注意が必要でしょう。発信内容が充実していて適切に更新されているのは39館であり、単なる「広報」を越えた「調査研究」や「交流サービス」の活動にまで踏み込んでいるのは、そのうち19館でした。

情報発信を充実するには

図2 県博物館協議会の表紙ページ
 http://www.lbm.go.jp/kenhaku/
 ここから加盟各館の紹介を検索できます。

 適切に情報更新できている館が2割程度しかないという状況は、どうすれば改善できるのでしょうか?種々の事例を見ていく中で、電子情報発信の業務が「一過性のイベント」になっていて、「日常活動」の中で位置付けられていないのが原因と思われる例が少なくないことに気付きました。
 極端な例として、優れた独自ページを整備したものの2年以上も更新されていない、県内の某町立博物館があります。後から整備された町役場ページの紹介情報と総合して整理し直せば発信内容の向上につながるのですが、独自ページには町役場ページへのリンクすらありません。「日常活動」で更新できる状況ではない、しかし「イベント」で更新する予算も確保できないという状況に陥っていることが推測されます。
 背景には、電子情報の更新など「日常活動」でできるわけがないという思い込みもあるかもしれません。実際にはチラシなどの「紙媒体」による広報活動と大差ないのですが、どうも「コンピュータ」というと身構えてしまう人が多いようです。ということは、電子情報発信というものが「便利で有効」であって「意外と簡単」であるという感覚が現場に浸透していけば、この問題は解決できていくかもしれません。
 我々の次なる課題は、解決に向けての具体的な道筋を探っていくことだと言えるでしょう。

(注)調査時点では、滋賀県博物館協議会の加盟各館紹介ページが未公開だったことにも注意してください。現在では、加盟館(86館)の約半数について、協議会のページで最も詳しい情報が得られます。

【参考文献】戸田孝(2001):博物館のインターネット発信における「情報格差」、博物館研究、Vol.36、No.3、pp.30-33。
この論文の内容をネット上でも公開しています。
http://www.lbm.go.jp/toda/museums/divide.htmlで、基礎となった調査結果もリンクでたどれます。



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