Go Prev page Go Next page
主任学芸員
牧野 久実
(民族学・考古学)

特集

[Lakes of the world and the lives of the people around them.]

はしかけさんと中世なんでも探検隊



はしかけさんて何?

picture

 最近、各地の博物館でボランティアさんの活躍が目立つようになってきました。日頃博物館の仕事に興味を持っていても、学芸員でなければその中身を知る機会はなかなかありません。ところが、このボランティア制度を利用すると、来館者としてではなく、内側から博物館の仕事を体験することができます。そうした理由で、ボランティアに応募する人は年々増えているようです。
 琵琶湖博物館にもこうした制度があります。「はしかけ制度」と呼ばれるものです。「はしかけ」とは湖北地方で仲人さんを意味します。琵琶湖博物館では、博物館と来館者を結ぶという意味をこめて、単にボランティアではなく「はしかけさん」と呼んでいるのです。現在、一二一名のはしかけさんが登録されています。
 はしかけさんは琵琶湖博物館の一般的な仕事だけでなく、それぞれの興味に応じた事業を選んで参加することができます。今年度は、体験学習、滋賀県内の魚の分布調査、たんぼの生き物調査、里山体験、中世なんでも探検隊、珪藻の会があり、皆さんそれぞれに盛んな活動を行っています。今回はこのうちの「近江の国 中世なんでも探検隊」についてご紹介しましょう。


近江の暮らしのルーツは中世にあり

 「近江の国 中世なんでも探検隊」は、来年度の企画展示「中世のむら探検・近江の暮らしのルーツを求めて・」と深く関連しています。中世とは古代と近世、近代のあいだの時代で、日本史では平安時代後期(十一世紀後半)から室町時代(十六世紀後半)までとされています。ちょうど今から七〇〇年程前のことですが、この頃の庶民の暮らしについては意外に知られていません。もっと古い縄文、弥生時代、また、もっと新しい近世については盛んにマスコミに取り上げられ、皆さんにもすでに馴染みのある時代だと思います。ところが、中世、しかもその庶民の暮らしとなると、ほとんど外国、いやそれ以上に異文化と感じられるかもしれません。
picture  近江のくらし、特にいわゆる伝統文化が息づくといわれる昭和三〇年代のくらしのルーツは中世にあります。しかも、今でも我々の生活のあちこちにそれらの断片を垣間見ることができます。祭りや地蔵盆といった伝統行事、回覧板や自治会に示されるような小さなコミュニティー、水辺と密接に関わった暮らし、そうした我々にとって身近なものは実は中世の後期に始まっていることが多いのです。こうした暮らしのルーツを知ることで、これからの地域社会のあり方を改めて考えてみようというのが、来年度の企画展示における試みといえます。


中世なんでも探検隊

 さて、この企画展示ではしかけさんが大活躍します。実は企画展示室に設けられた中世の家で、中世人として当時の生活を再現してもらうのです。これまでのはしかけさんは、博物館の事業の中でも研究に関連する目に見えない活動に主に関わっていました。ですから、企画展示という表舞台で展示そのものに関わるというのは、はしかけさんにとっても初めての体験となります。
picture  ただ、中世人といってもそう簡単になれるわけではありません。そこで、その準備として平成十三年(二〇〇一)六月に「近江の国 中世なんでも探検隊」を立ち上げ、はしかけさんを対象に月に二回ほどのペースで中世の衣食住に関する体験学習を行いました。その中身は実に刺激的でした。衣については、秦荘町の「手織の里金剛苑」で近江伝統の藍染めの技術を教えていただいたり、麻をさいてよりをかけ糸を紡いだり、また機織りや草木染めも体験しました。食については、麦を石臼でひいて素麺のルーツとも言えるむぎなわを作り、水路でとってきたどじょうを入れて煮込んだにゅうめんをいただきました。また、野焼きで作った器で味噌ぞうすい(みそうず)も食べました。住については、発掘中の草津市の野路岡田遺跡で住居跡を見学したり、昭和五九年(一九八四)に発掘された守山市の横江遺跡から出土した川と堀に囲まれた中世の団地の図面をもとに当時の家の模型を作ったりしました。また、さいころや木の枝を使った独特の遊びも体験しました。  回を重ねるうちに、皆さん立派な中世人に生まれ変わりつつあるようです。こうした「中世はしかけ」さんには、十一月から新たにスタートした「なんでも中世探検隊 第二期」であないじゃ(案内者)としても活躍していただいています。その成果は来夏に皆さんにお披露目できます。今後の企画展示への歩みを期待してください。
 話はこれで終わりではありません。実は中世探検隊の最終目的はその先にあるのです。それは地域の暮らしのあり方を考える研究チームの発足です。中世の生活を知ること、そして企画展示を開催することは、その足掛かりにすぎません。しかし、それはあくまでもはしかけさんの自主的な活動として発足されるべきものであり、私達がこれ以上語るべきことではありません。学芸員の専門性や博物館そのものを利用しながら全く新しいものを創造する、それがはしかけさんの姿なのです。


企画展イメージキャラクター

-3-

Go Prev page Go Prev page Go Next page