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琵琶湖博物館収蔵品ギャラリー

私の逸品

主任学芸員楠岡  泰(微生物生態学)

「ミクロの世界」の種明かし

ミクロの世界入口

 琵琶湖博物館C展示室にある「ミクロの世界」をご存知ですか? 琵琶湖のプランクトンを、動く“立体的”な映像で紹介している、あのコーナーです。「ミクロの世界」の種明かしをします。
 私は学生時代から水の中にすむ小さな生き物を研究対象として、顕微鏡でのぞいてきました。そして、一つの夢として、自分自身がミジンコなどの大きさになってミクロの世界を探検したいと思っていました。実際に、映画「ミクロの決死圏」のように自分が小さくなるのは恐ろしそうなので、せめて、目の前で立体的な等身大のミジンコが泳ぐところを見てみたいと思っていました。琵琶湖博物館の開設準備室に就職して、展示計画に関わるようになったとき、この夢を何とか実現できないかと考えました。お客さんの目の前に等身大の立体的なプランクトンが泳いでいる空間があったら、どんなに素敵だろうと思ったのです。すぐ目の前にいるプランクトンを手でつかもうとすると、お化けのように手が空を切ってしまうような空間です。3次元ハイビジョンなど、色々な方法を検討しましたが、自分で撮影した映像を使うことができること、偏光眼鏡など特殊な機材を必要としないこと、メンテナンスが容易なこと、などから、デルビジョンという方式にたどり着きました。残念ながら、等身大のプランクトンは不可能でしたが、黒い箱の中をプランクトンが泳いでいて、それをつかもうとしても、手が空を切る展示は完成しました。
展示用窓(通常は暗い) 中の立体的に見える映像
(ケンミジンコの一種)
 デルビジョンは一見ハイテク機器のように見えますが、その原理はいたって簡単でテレビモニターの映像を凹面鏡に反射しているだけです。手前に実物の石が置いてありますが、観客が頭を動かすと石と映像の相対的位置の変化で一見宙に浮いているように見えるのです。デルビジョンでは凹面鏡を使っているため、黒い箱の中でしか、プランクトンを泳がすことができません。いつの日か等身大のミジンコが目の前を泳ぐ姿を見てみたいと、いまだに夢みています。


裏から見た凹面鏡は凸状になっている


表紙の写真
スズキケイソウ(Stephanodiscus suzukii Tuji & Kociolek 2000)


 琵琶湖で平成12年に新種であると発見されたプランクトンケイ藻です。100分の3mm程度の非常に小さな植物で、冬場に北湖で見られます。琵琶湖の固有種と考えられています。
 表紙の写真は、微分干渉顕微鏡という特殊な顕微鏡で撮影したもので、実際にはこのような鮮やかな色はついていません。

■ 命名者:辻 彰洋(琵琶湖博物館 特別研究員)・ジョン コサイオレック
■ 撮影者:辻 彰洋(琵琶湖博物館 特別研究員)

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