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-研 究 最 前 線-

子どもと博物館 ~韓国との交流~

琵琶湖博物館 主任学芸員  芦谷美奈子

琵琶湖博物館 嘱   託  山中 裕子


意見交換会
韓国国立中央博物館の学芸員の方々と子ども向け展示のあり方について意見を交換(奥左・山中、奥右・芦谷)

子どもを対象とした博物館の展示

 博物館の展示といえば、大人が対象という印象がありましたが、最近では「博物館で体験学習」といった見出を新聞などでよく見ます。いま博物館では、子どもを対象とした様々な取り組みが始まっています。
 琵琶湖博物館のディスカバリールームは、子どもや家族づれを対象とした常設展示です。開館から6年たった今でも、たくさんの子どもたちが訪れます。この展示室で、私たちは、子どもたちと交流しながら、博物館での学び、展示の理論や方法、自己評価の方法についての共同研究を続けています。
 そのご縁で、今年5月に韓国ソウルにある国立中央博物館を訪問しました。韓国国立中央博物館は、国を代表する歴史的な遺物や文化財が納められている、韓国で最も大きな博物館です。現在、新しい建物を建設中で、子ども向けの大規模な常設展示を新たに設置する計画を進めています。私たちは、子ども向け展示の計画について助言を求められました。

韓国国立中央博物館の場合

 韓国の子ども向け施設としては、サムスン子どもの博物館が1995年に開館しています。しかし、大規模な総合博物館に、本格的な子ども向けの展示室をつくる試みは、韓国では初めてだと思います。
 子ども向けの展示は、アメリカやヨーロッパの博物館が早くから取り組んでいます。サムスンでも、ボストンから専門家を招くなど、アメリカの子ども博物館の方式をとりいれています。しかし、国立中央博物館では、日本の琵琶湖博物館を参考にしようと考えたそうです。新しい博物館を準備している閔丙贊学芸員によると、「同じアジアで隣接しており、社会的な状況や人々の意識、学校教育制度などが似ている。また、全体が子どもを対象とした施設でなく、博物館の中の子ども向け展示室という共通点がある。そこでまずはアメリカではなく、日本でよい事例をさがした。その時琵琶湖博物館を知った」ということでした。
地図  韓国国立中央博物館で準備の仕事をしている学芸員達は、ほとんどが歴史学や考古学などの研究者です。その中で唯一子ども向け展示室の教育プログラム開発を担当しているのは金孝庭さんです。金さんは、アメリカで博物館教育を勉強してきた専門家です。ただし、韓国国立中央博物館では、特定の専門家だけではなく、室長以下全員が自ら子ども達への教育に積極的に関わっていこうという気概が感じられました。この点、企画や運営に専門外の学芸員たちも関わって作り上げた、琵琶湖博物館のディスカバリールームと似ています。
 ただ、私たちもそうですが、展示ケースもない子ども向けの展示室を総合博物館に初めて作る作業は簡単なことではありません。韓国国立中央博物館の計画には、苦心や模索のあとが感じられました。私たちは、琵琶湖博物館でのディスカバリールームの経験や研究の成果から、子どもによる展示の受けとめ方や効果、ハンズ・オン導入の注意点、楽しさと学びを両立させるポイント、展示評価の必要性などについて意見を交換しました。

子どもと博物館のこれから

 その後韓国国立中央博物館の子ども向け展示室はどうなったのでしょうか。結局、5月の時点の展示プランは全面的に見直され、サムスン子どもの博物館のスタッフと学芸員たちが協力して基本プランを作りなおしたそうです。また、学校を訪れて企画段階の評価をしてもらうなど、私たちが訪問した時点に比べて子ども向け展示の計画は飛躍的に進んだと、後日、金さんから手紙が届きました。
完成予想図
建設中の博物館の完成予想図
 私たちが進めている子どもの博物館についての研究プロジェクトに関連して、韓国の事例を紹介しましたが、現在台湾の博物館でも同様の計画があるとききます。博物館が子どもたちとどうつきあっていくのかは、日本を含めた東アジアの博物館にとっても、重要な項目になってきたようです。




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