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 Goin' at Field! フィールドへ出よう!

けば
桶屋がもうかる?!

学芸員 戸田 孝(地球物理学)

 「風が吹けば桶屋がもうかる」ではありませんが、琵琶湖を取りまく気象現象は、湖水の流れを通してプランクトンや魚の分布にも影響します。また、天気によっては湖が荒れ、湖上の航行に危険を及ぼします。


 琵琶湖博物館では、「ビワコダス」と名付けた住民参加型調査で、このような琵琶湖地域の気象現象を調べ、展示しています。

ビワコダスのルーツ

 ビワコダスのルーツを探ると、1989年度から1991年度まで続いた「ホタルダス」「ユキダス」*注1)にまで戻れます。琵琶湖研究所のバックアツプで進められたこの計画は、「夏は蛍、冬は降雪」という身近な自然現象を、みんなで調べてみようというものでした。

 「ユキダス」では、参加者が各地の気温や積雪などを観測し、その結果を集計して、各参加者が全体を一斉に見えるようにしました。同時に、パソコン通信を用いて、冬の気象や暮らしについて自由に議論していきました。

 この議論の中で、琵琶湖の漁師さんたちの間で言い伝えられてきた、風に関する言葉が話題になりました。漁師さんたちは、どのような風が吹けば湖が荒れて危険であるか、あるいはどのような風か吹けば天気がどのように変わっていくかというような経験則を積み重ね、それを代々言い伝えて、漁の計画を決める手がかりにしてきました。

 言い伝えでは、風の吹き方に名前をつけて区別します。例えば、「ヒアラシ」という風があります。これは、湖南から湖北に向かって吹く弱い南西風または南風のことで、これが数日問吹き続くと天気が悪くなるとされています。「ヒアラシ」という言葉は「陽」を「荒す」ものという意味ではないかとも言われています。

 このような議論を通して、風の吹き方が天気を考える上で重要だという声が高まり、その中から、風のことを実際に詳しく調べてみたいという人たちが出てきました。そこで、雪だけではなく、琵琶湖地域の気象全体を詳しく調べてみるということで、「ユキダス」に続く「ビワコダス」と命名することになりました。

風の観測って難しい

 ビワコダスでは、琵琶湖をとりまく各地での風の吹き方の違いも調べていこうと考えています。ところが、気象庁のアメダスは、天気予報に必要な、日本全体をとりまく気象を観測するようにできていて、ビワコダス用には粗すぎるのです。それ以外のデータはというと、警報さえ出せれば良いようにできていて、普段のデータは残らないものが多いし、残っていても、簡単には寄せ集めて比べられないものがほとんどです。

 そこで、参加者が各々の自宅などに、新たに風向風速計を立てて観測することにしました。しかし、毎日1回の観測で充分だったユキダスと違って、時々刻々変化する風を、少なくとも10分おきに観測する必要があります。そこで、観測データが自動的に記録されるようなシステムを作らねばなりませんでした。また、風速風向計は屋上などの高いところに立てねばならず、それ自体大変な作業になります。雷も心配です。

 また、観測したデータは、互いに交換して比べねばなりません。そこで、記録システムのパソコンどうしを通信回線で結ぶことにしました。観測と通信を同時に行うシステムを作るのが、またひと苦労でした。そしてもちろん、交換したデータをうまく比べられるように表示するシステムも作る必要があります。

 このような苦労をl992年度から1995年度までの4年間続けた末、風観測もデータ交換も比較表示もどうにか完成しました。そして、最後の年には仲間を増やして、琵琶湖をとりまく10地点での観測データを集められるようになりました。

C展示室でも見られるようになります

 ビワコダスのデータはC展示室の航空写真の横にあるパソコンでも見られるようにする予定でした。ところが、博物館内のネットワークを開館に向けて突貫工事で作った後遺症で、ビワコダスとの接続がうまくいかず、まだ見られるようになっていません。今年の夏休みまでには何とか接続を成功させて、来館者の皆さんにも、琵琶湖地域の気象をいっしよに考えてもらえるようにしたいと思っています。

ビワコダスのデータ表示の一例(提供 琵琶湖地域環境教育研究会 松井一幸氏)
地図上の黒い矢印か動くことによって、1日の風の変化を30秒くらいで見ることができます。
典型的な「ヒアラシ」をとらえた一例です。



*注1) 気象庁のアメダス(AMeDAS)は「自動気象データ収集システム」という意味の英語の頭文字を取った略語ですが、同時に「雨だす」というシヤレにもなっています。この「ダス(=データ収集システム)」の部分を拝借し、「雨」の代わりに「蛍」や「雪」を測るという意味で「ホタルダス」「ユキダス」と命名したわけです。

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