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 Goin' at Field! フィールドへ出よう!

滋賀県のカタツムリ

学芸技師 中井 克樹(動物生態学)


陸にすむ貝

 陸にすむ貝の仲間は陸生貝類(陸貝)と呼ばれますが、カタツムリやナメクジはその代表格。それ以外に、陸貝にはふつうのカタツムリとはだいぶ違ったものも含まれています。淡水にすむカワニナより細長い殻を持つキセルガイの仲間や、1ミリほどしかない微小な貝など、多くの種類があるのです。

 陸貝は、人手があまり加わらない森や林で腰を落ちつけて土や落ち葉をほじくって探すのですが、わき目もふらずに没頭していると…当然怪しまれます。そこで登場するのがキセルガイや微小貝。「こんなのを調べている」と言って見せると、たいていの人は感心したり驚いたりします。このような手持ちがない時、カタツムリを見せても「薬にでもするの」と聞かれれば良いほうで、かえって怪しまれたりすることも。

陸貝のおもしろさ

 では、陸貝のおもしろさはどこか? それは「歩みののろい」こと、つまり移動能力の少ないことです。そのため、地域的に集団が孤立して、独自の変化を遂げることが多く、種の分布や、種内の変異を調べることは、地域の地史的な歴史をひもとくうえでも大いに役立つと思われます。

 滋賀県は、中央にかまえた琵琶湖が大きな地理的障害になっているらしいことは知られていましたが、カタツムリの種ごとの細かな実態はよく分かっていませんでした。そこで、1994年の5月から9月にかけて、県民のみなさんの参加を求めて「カタツムリ調査」を行いました。

新しい発見

 この調査には、県内の全市町村からあわせて1000人を超える方々に参加していただき、送られてきた陸貝は全部で41種になりました。そのなかで、圧倒的に多かったのはナミマイマイ、クチベニマイマイ、ウスカワマイマイの3種で、県内の平野部に広く分布していることがわかりました。一方で、滋賀県内で初めて発見された種もいくつかありました。そのなかには、県内での生息が予想されていたものもいましたが、分布の南限を更新したものや、明らかに人為的に持ち込まれたものも含まれていました。これらの結果の一部は、博物館の常設展示で紹介されています。

 陸貝はじつに多種多様なのに(滋賀県でもおそらく100種を超えるでしょう)、一般にはそれがあまり認識されていないようです。たとえば呼び名。今回の調査でも、代表的な「かたつむり」「でんでん虫」のほか、いくつかの呼び名の情報が寄せられましたが、種を特定するようなものはありませんでした。和名に関しても、おそらくほとんどの方は全然ご存じないのではないでしょうか。身近な動物でこれほど和名が浸透していないグループも珍しいと、常々思っています。なお、年輩の方は「でんでん虫」、比較的若い年齢層は「かたつむり」の呼び方を用いる傾向が認められました。

ツルガマイマイ:湖東・湖西・湖北の平野部にすむ大型のカタツムリ。滋賀県が分布の南限になっています。

これからの調査

 みなさんに協力いただいた大捜査によって、滋賀県の平野部における大型種の分布と変異はだいたい分かってきました。しかし、山間部など広大な調査の空白地域があるうえ、小型種はほとんど手つかずで、まだまだ調べることが山積みです。私自身、ここしばらく湖ばかり見ていましたが、今年は県内の陸貝調査も始めようと思っています。

 陸貝を調べるうえでありがたいのは、死んだ殻が長い間残ることで、殻を拾うだけでその種がそこにすんでいる、あるいは最近まですんでいたことが分かります。そこで、山歩きをする人には機会があるごとに「殻が落ちていたら拾っておいて」とたのんでいます。

 いまや、春まっさかり。カタツムリも冬の眠りからさめる時期です。暖かい雨降りのあと、ちょっと散歩でもいかがですか。石垣や木の上、草むらなどでカタツムリの姿が見られるころです。面白い発見をされた方、変わった殻を拾われた方など、新しい陸貝情報があれば、ぜひお知らせください。

コガネマイマイの種内変異:県内のほぼ全域に分布するコガネマイマイには、大きな種内異変のあることが知られています。伊吹山から奥伊吹にかけての山々には狭義のコガネマイマイの形(上段)、比叡山から比良山地にはニシキマイマイの型(中段)が生息し、県内の平野部にはナミマイマイの型(下段)が広く分布しています。

ミカドギセルガイ:普通のキセルガイよりも、はるかに巻き数が多くて細長いのが特徴。伊吹山から鈴鹿山脈北部にかけての石灰岩地にしか生息しない固有種。

「カタツムリ調査」の結果

 クチベニマイマイ(上)は、県内のほぼ全域に生息するのに対し、クロイワマイマイ(右)は、湖東から湖北にかけての山地に生息しています。

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