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琵琶湖博物館収蔵品ギャラリー

私の逸品

主任学芸員 森林生態学 草加 伸吾

元気に育て

 この写真は貴重な数少ない植物を繁殖してこれから育てようとしている所です。左の4つはユキバタツバキの淡いピンク色をした自生品種を挿し木によってふやしたもの、右は、県内の自生イチイガシをどんぐりから発芽させたものです。

 ツバキの方は、余呉町高時川上流部針川、現在計画中の丹生ダムが完成すると、40m程水没してしまう険しい崖に、2、3株自生していたものですが、このままではダムに水没するので、幾本かの枝をもらって持ち帰り、挿し木および葉挿しをしました。

 この地域は県の最北部で、新潟県を中心として日本海側に分布するユキツバキの分布では南西限にあたり、より南あるいは北の海岸沿いに分布するヤブツバキと交雑してユキバタツバキなる変種を作ることが知られています。しかし、椿坂峠と言われるように、そういったツバキの様々な変異種の自生地が沢山あった地域も、最近では別荘開発や植林地化により、失われつつあり、現在ではこれらのツバキが自生しているところは少なくなっているのが現状です。その花は、侘助のような非常に淡いピンクですが、このままでは此の色を持つものが絶えてしまう可能性もあります。植物の保存の場合、自生地での保存が、原則であり、最善の方法ですが、それが不可能なときは、次善の策として、別の場所でその種の保存という形で残すことになります。

 また、イチイガシですが、滋賀県では自生イチイガシは、湖西(八所神社)および湖東部(左右神社)に一本づつの2本しか残っていないと言われています。共に直径1メートル近くある大木ですが、どちらの木にも実生などが見つからず、また一本では自家受精という形になるためか、ほとんどが「しいな」となり実が出来にくいようです。ようやくいくつかの充実したどんぐりを採取し、まいたところ、僅かに2本やっと発芽したものがこれです。共に、社寺林の中に残っている木ですが、どちらも一本のみなので、これらが大きく育つのを楽しみにしています。

 これらの貴重な植物は、博物館で保存し、増やして、少し大きくなったものを、現地に戻すと共に、屋外の森や、見本樹林に植えて将来の博物館の森づくりに生かしていこうと考えています。

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