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過去15万年間の日本海堆積物の花粉化石から 琵琶湖の森の変動と海の関係性が解明されました。

【論文の概要】

琵琶湖地域の森の変動と海の関係性を明らかにするため、鳥取から北に約300km離れた日本海の大和海盆北部で採取されたKR07-12 PC-07堆積物の花粉化石の分析を行いました。

その結果、「日本海暗色層」と呼ばれる東アジアモンスーンの温暖化時期には、琵琶湖地域を含む日本列島の森から約300km離れた日本海の大和海盆まで、多くの花粉が飛散もしくは海流に運ばれて堆積していたことが明らかになりました。

さらに、「日本海暗色層」の時期の中には、スギ花粉が優占する暗色層(Cry-DL)と、落葉広葉樹花粉が優占する暗色層(TDB-DL)が認められ、それぞれの時期には異なったパターンの森と気候が成立していたことが示されました。

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1 日本海に面する隠岐島とスギ天然林


 

【論文のポイント】

・温暖化時期には日本列島から300km離れた日本海まで花粉が運ばれていた!

日本海の堆積物には、東アジアモンスーンの温暖化時期が黒色の泥層である「日本海暗色層」として記録されています。

この「日本海暗色層」の中には、花粉化石が多く含まれており、日本列島の固有樹木であるスギやブナが優占していました。また、「日本海暗色層」の花粉化石は、琵琶湖堆積物の花粉化石と類似した変動パターンを示すことが明らかになりました。

これらのことは、温暖化時期においては、琵琶湖地域を含む日本列島の森から約300km離れた日本海の大和海盆まで、多くの花粉が飛散もしくは海流に運ばれて堆積していたことを示しています。

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2 日本海堆積物のスギ花粉(バーは10μm

・温暖化時期の中にも2種類のパターンの森と気候が成立していた!

「日本海暗色層」の中には、スギ花粉が優占する暗色層(Cry-DL)と、落葉広葉樹花粉が優占する暗色層(TDB-DL)2種類の花粉化石パターンが認められました。Cry-DLの堆積時期は年間を通して降水量が多く季節差の小さい気候でしたが、TDB-DLの堆積時期は季節差の大きい気候であったと考えられます。

東アジアモンスーンの温暖化時期を示す「日本海暗色層」の中でも、スギが優占する森と落葉広葉樹が優占する森という、2種類の異なったパターンの森と気候が日本列島には成立していたことが明らかになりました。

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3 「日本海暗色層」の中のスギ優占時期 (Cry-DL)と落葉広葉樹優占時期(TDB-DL)の夏季と冬季の陸上植生と気候環境のパターン


 

【本論文の意義】

琵琶湖周辺の森は過去の気候変動の影響を受けて大きくうつり変わってきたことが、陸上堆積物の花粉化石の研究から明らかになってきています。日本周辺での海の環境の変化が雨や雪の降り方を変えてしまうことが、森の変動を生み出す要因の一つと考えられています。

本研究の成果から、温暖化時期には日本海の堆積物の中にも、日本列島の森から運ばれてきた花粉化石がきちんと残されていることがわかりました。陸と海の堆積物に記録された花粉化石を調べることで、森と海の変動の新たな関係性が明らかになることが期待できます。


 

【関連する展示】

A展示室の「変わる気候と森」コーナーでは、くり返す琵琶湖周辺での森の変動が紹介されています。本研究の成果は、そのような森の変動に対する海の変化の影響を明らかにすることにつながっています。


 

【論文情報】

・雑誌名:『Progress in Earth and Planetary Science 
・論文題名:『Terrestrial vegetation and climate patterns during the dark layer depositions in the Japan Sea based on a pollen record from the KR07-12 PC-07 in the last glacial–interglacial cycle 
・著者:林 竜馬(琵琶湖博物館)・入野智久(北海道大学) 
・発行:2025717 
・ページ数:14ページ 
DOI: https://doi.org/10.1186/s40645-025-00726-2