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【論文の概要】
・花粉飛散堆積モデルに基づく「景観復元法」を応用して、琵琶湖堆積物の花粉化石から過去の森の歴史を定量的に復元することに日本ではじめて成功しました。本研究では、世界でも類を見ない日本での花粉生産量データベースを活用した「景観復元法」を開発しました。
・琵琶湖の表層堆積物中の花粉組成を用いて現在の植生量を「景観復元法」により復元した結果、実際の琵琶湖周辺の植生割合に類似した値が推定されました。また、農林業センサスによるスギ人工林面積の変化を反映した、過去50年間のスギ林の植生割合の変化を復元することに成功しました。
・「景観復元法」を用いることで、過去100年間および過去1万年間の琵琶湖の森の歴史を定量的に復元しました。「景観復元法」を応用することで、新たな森の歴史観が明らかになることが示されました。

図1. 琵琶湖から見た比良山系の森
【論文のポイント】
・「景観復元法」により過去の森の歴史を定量的に復元することに成功!
最新の「景観復元法」を応用して、琵琶湖堆積物の花粉化石から過去の森の歴史を定量的に復元することに成功しました。
本研究では、世界でも類を見ない1970年代から続けられている日本での花粉生産量の基礎研究成果(Hayashi et al. 2022)を活用して、近年ヨーロッパを中心に世界的に応用研究が進められている「景観復元法」(Sugita et al. 2007)を応用しました。
琵琶湖の表層堆積物中の花粉組成を用いて現在の植生量を「景観復元法」により復元した結果、実際の琵琶湖の周囲50〜100kmの植生割合と類似した値を示しました。世界で用いられている花粉生産量データを用いた場合と比較して、日本での花粉生産量データベース(Hayashi et al. 2022)に基づく「景観復元法」が、実際の植生割合に最も近い値を示しました。
さらに、過去50年間のスギ林の植生割合の推定値は、農林業センサスによるスギ人工林面積の変化を反映しており、琵琶湖地域において「景観復元法」を応用することの信頼性が示されました。

図2. 琵琶湖表層の花粉割合・復元された植生割合・実際の植生割合の比較 花粉割合ではスギが多いが、「景観復元法」による植生割合は実際の植生割合に類似した値を示す。
・過去100年間および過去1万年間の琵琶湖の森の歴史を定量的に復元!
「景観復元法」を琵琶湖堆積物の花粉化石に応用することで、過去100年間および過去1万年間の琵琶湖の森の歴史を定量的に復元しました。
過去100年間の琵琶湖の森の歴史を復元した結果、花粉割合では高率で出現するスギが、実際の植生割合では10〜20%程度であったことが定量的に示されました。また、20世紀のはじめには人による森林資源の過度の利用により、アカマツの疎林が琵琶湖地域に広く分布していたことが明らかになりました。
また過去1万年間の森の歴史を見ても、花粉割合ではスギが過大な値を示しており、10,000年〜6,000年前頃にはブナ林が優勢だったことなどが示唆されました。「景観復元法」を応用することで、これまでに考えられていた知見を塗り替える、新たな森の歴史観が明らかになることが示されました。

図3. 過去100年間の琵琶湖堆積物の花粉割合(林ほか 2012)と「景観復元法」で復元された植生割合の比較 花粉割合では高率で出現するスギは実際の植生割合では10〜20%程度であり、20世紀のはじめにはアカマツ広く分布していた。
【本論文の意義】
森の歴史を明らかにするために、堆積物中に残された花粉化石の研究が進められています。しかし、花粉をつくる植物によって、花粉の生産量(花粉の多さ)や飛散性(花粉の飛びやすさ)が異なっているため、花粉化石の割合と植生の割合は一致しないことがわかっています。
本研究では、花粉の生産量や飛散性を考慮した花粉飛散堆積モデルを用いて、花粉化石から過去の植生割合を定量的に復元することに成功しました。本研究で用いた「景観復元法」を応用していくことによって、花粉化石の研究成果から新たな森の歴史が明らかになることが期待されます。
【関連する展示】
A展示室の「変わる気候と森」コーナーでは、くり返す琵琶湖周辺での花粉化石の研究に基づく森の歴史が紹介されています。本研究の成果によって、「景観復元法」を用いた新たな森の歴史が明らかになりました。
【論文情報】
・雑誌名:『The Holocene』
・論文題名:『Testing the REVEALS-based vegetation reconstruction around Lake Biwa, western Japan, using absolute pollen productivity estimates derived from the flower counting method』
・著者:林 竜馬(琵琶湖博物館)・佐々木尚子・高原 光(京都府立大学)・杉田真哉(タリン大学)
・発行:2025年9月26日
・ページ数:11ページ
・DOI: https://doi.org/10.1177/09596836251366195