背景色

文字サイズ

タイプ標本とは(動物編)

  • ホーム
  • タイプ標本とは(動物編)

タイプ標本(Type specimen)とは(動物編)


 ※本ページは「国際動物命名規約第4版」をベースに、動物の「種レベル」におけるタイプ標本とは何なのかを紹介します。植物や藻類、菌類(カビ、キノコなど)、原核生物(細菌など)は別の命名規約によって定められています。
各用語をより詳しく知りたい場合は、ページ下部の用語解説を参考にしてください。


 タイプ標本とは、ある生物が新種であることを示した論文内で使われた、その動物の特徴(形質)を保証する標本です。記載では複数のタイプ標本を含むことが多いため、タイプ標本として使われた標本をまとめてタイプシリーズと呼びます。
 タイプ標本には、代表となり、ひとつだけ存在する担名タイプの他に、多くの生物には個体差や性差が存在するため、これらの差異を確認できるような担名タイプではないタイプ標本が同時に作られることがよくあります。これらタイプ標本はそれぞれ別の名前、役割を持っています。

プレゼンテーション1.jpg

・タイプ標本作成の例

担名タイプ水色背景それ以外のタイプ標本緑背景で示す。
・ある新種のミジンコ「ビワハクミジンコ Daphnia biwahaku」を記載したとする。
・記載にはビワハクミジンコ雌雄合わせて100個体の標本が使われた。
 この時、1個体を担名タイプとして「ホロタイプ」に指定すると、他の99個体はパラタイプとなる。この99個体の中から別性別の1個体をアロタイプとして指定することもできる。
 ホロタイプを指定しなかった場合、100個体すべてが自動的にシンタイプになる。後々別種との比較が必要になり、シンタイプから代表となる1個体を選ぶと、その1個体はレクトタイプになり、残り99個体はパラレクトタイプになる。
 何らかの理由で全ての担名タイプが失われており、かつ別種との比較が必要になった時、パラタイプパラレクトタイプトポタイプ、もしくは確実に同種である保障のある標本からネオタイプを選ぶ。

・ネオタイプが指定されるまで

 担名タイプは、その生物の種を定義する非常に重要な標本です。そのため、例え失われてしまっても、簡単に代わりの担名タイプをつくることはできません。
 特に完全新規に作られることもあるネオタイプの指定には下記のような多くの条件が付きます。それほど重要な標本なのです。

ネオタイプ指定に必要な条件(例)
1. その生物の研究をするうえで、ネオタイプ標本の選定が必要であるか
2. 指定したい標本と近縁な他の生物との比較は十分に行ったか
3. 担名タイプとして十分なデータを取っているか
4. 担名タイプは本当に失われているか
5. その標本は本当にもとあった担名タイプと同じ生物の標本であるか
6. もともとの標本と同じ場所、条件から得られているか
7. ネオタイプ標本は、研究機関などでちゃんと保管されるようになっているか

(例) ビワコツボカムリ(Difflugia biwae)は研究機関に保管されていたビワコツボカムリのサンプルからネオタイプが指定された。再記載論文(Ichise, Sakamaki and Shimano 2021)にはネオタイプの他にも標本が使われているが、ネオタイプが新たな標本群から選ばれたため、規約上、ネオタイプ以外の再記載に使われた標本に当てはまるタイプ標本の種類が存在しない。そのため、この記載では「ネオタイプ」と「証拠標本」と言う形で指定している。証拠標本は厳密にはタイプ標本ではないが、その重要性を考えればタイプ標本と同等の扱いが妥当であろう。


用語解説

1.タイプシリーズ Type series

 ある生物が記載された時に使われた、その生物の標本全て(ただし、著者が論文内でタイプから除くと宣言したものは含まない)。いずれも重要な標本であるため、どのようなタイプ標本であるかを明示したうえで、厳重に保管する必要がある。

2.担名タイプ Name-bearing type

 その生物の基準となる標本。基本的に、ひとつの種に対して、担名タイプは同時にひとつしか存在しない。
初記載時に指定:ホロタイプ、ハパントタイプ、シンタイプ
再記載時に指定:レクトタイプ、ネオタイプ
担名タイプになりうる標本の例
・長期保存可能な生物の標本(一部でもOK)
・化石(生物の一部や痕跡でもOK)
・無性的に増えた群体の一塊(サンゴなど)
・現生の原生生物の場合、生活環のステージすべてを含んだ標本群
・複数個体が入ったスライド内で、明確に指定された1個体

2-1.ホロタイプ Holotype
 ある生物が新種記載された時に、タイプシリーズから1個体だけ選んで指定する、その生物の代表となる標本。
2-2.ハパントタイプ Hapantotype
 現生の原生生物で、生活環のステージにより形態が変わる場合に、そのすべての形態を含んだ標本群。
2-3.シンタイプ Syntype
 ある生物が新種記載された時に、複数の標本を使っており、ホロタイプ指定がない場合、論文中のその生物の標本すべて。もしくは「複数の標本を指定して、シンタイプとする」とされていた場合の指定されたすべての標本。
2-4.レクトタイプ Lectotype
 後の再同定により、シンタイプから1個体のみ選ばれた担名タイプ。残りのシンタイプは以降、レクトタイプの状態によらず、パラレクトタイプとして扱われる。
2-5.ネオタイプ Neotype
 他の担名タイプが存在しておらず、担名タイプが必要とされる場合に、新規に作られる担名タイプ。パラタイプやパラレクトタイプから作られることが多いが、それもない場合、同一性の確保が難しい。


3.担名タイプではないタイプ標本

 ある生物が記載された時に使用されたが、担名タイプとしての指定を受けなかった標本、もしくは担名タイプ以外のタイプ標本として指定を受けた標本。主に担名タイプの予備や、性差、個体差、後に精査する際の解剖用などに利用される。

3-1.パラタイプ Paratype
 タイプシリーズとして複数の標本があり、ホロタイプが指定されている場合、ホロタイプ以外のタイプシリーズに含まれるすべての標本。
3-2.パラレクトタイプ Paralectotype
 シンタイプからレクトタイプを指定した際の残りのすべてのシンタイプ。この時、パラレクトタイプとなった標本は担名タイプではなくなる。
3-3.アロタイプ Allotype
 雌雄がある生物の標本に対して、ホロタイプとは別の性別の標本1つ。(国際動物命名規約では定義されていない)
3-4.トポタイプ Topotype
 タイプ産地(担名タイプが採集された場所)で採集された、同種であると考えられる標本。(国際動物命名規約では定義されていない)


参考文献

・ビワコツボカムリの再記載論文 Satoshi Ichise, Yositaka Sakamaki, and Satoshi D. Shimano. 2021. Neotypification of Difflugia biwae Kawamura, 1918 (Amoebozoa: Tubulinea: Arcellinida) from the Lake Biwa, Japan., Species Diversity. オンライン公開 https://doi.org/10.12782/specdiv.26.171(外部リンクです)

・国際動物命名規約第4版 リンク先よりpdfがダウンロードできます

日本分類学連合HP内国際動物命名規約第4版ページ(外部リンクです)