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 織田信長の薬草園の謎:伊吹山の希少植物イブキノエンドウは日本の在来種であることを明らかにしました

 岐阜県立森林文化アカデミー/岐阜県森林研究所の玉木一郎准教授、滋賀県立大学の原田英美子教授、滋賀県立琵琶湖博物館の大槻達郎主任学芸員、田畑諒一主任学芸員らの研究グループは、伊吹山の織田信長の薬草園伝説について、イブキノエンドウ(図1)のゲノムDNAを用いた分子集団遺伝解析をすることで、移入経路を調べました。その結果、伊吹山のイブキノエンドウは在来種であり、織田信長の薬草園伝説を支持する植物ではないことが明らかになりました。


図1_イブキノエンドウ.jpg 
1 イブキノエンドウ


・織田信長の薬草園伝説
 イブキノエンドウはヨーロッパからユーラシア大陸にかけて広く分布しているマメ科植物ですが、日本ではほぼ伊吹山に限られています。このことから、イブキノエンドウは、同じような分布を示すキバナノレンリソウ等とともに、宣教師たちが伊吹山に持ち込んだヨーロッパ由来の薬草に紛れて16世紀に日本に移入したものであり、薬草園伝説を裏付けるものであると信じられてきました。
図2_伊吹山のイブキノエンドウの起源として想定される複数の可能性.jpg
図2 伊吹山のイブキノエンドウの起源...複数の可能性


・イブキノエンドウの起源は? 
 一方、数万年前の最終氷期の頃に形成された陸橋を通じてユーラシア大陸から移入した可能性や、明治以降に牧草に紛れて移入、定着した可能性も考えられました(図2)。
・イブキノエンドウは...日本の在来種だった!
ゲノムDNAを用いた分子集団遺伝解析の結果、この植物が牧草への混入や人為的な持ち込みに由来するものではなく、研究チームでは、日本の在来種であると結論付けました。
 本研究により、イブキノエンドウは織田信長の薬草園伝説を裏付ける植物ではないという結論になりましたが、これは、織田信長の薬草園は存在しなかったという意味ではありません。薬草園説を裏付けるとされている残る植物の詳細な解析に今後興味が持たれます。
 なお、本研究の成果は、国際英文誌「Scientific Reports」(Springer Nature)に掲載されました。

【分子集団遺伝解析】
図3_ゲノムワイド多型解析による系統樹.jpg
図3 ゲノムワイド多型解析による系統樹
日本産植物とヨーロッパ産の植物は明確に分離した。
図4_伊吹山と日本のイブキノエンドウの分岐時期の推定とし作成される2種のモデル.jpg

図4 伊吹山と日本のイブキノエンドウの分岐時期の推定とし作成される2種のモデル
モデル1自生仮説:伊吹山と北海道の系統はいずれも自生で最終氷期以前に分岐した場合
モデル2持ち込み仮説:伊吹山にいた個体が北海道開拓時代に人為的に持ち込まれた場合
自生仮説の方が持ち込み仮説よりも信憑性が高いモデルであることが明らかになった。
 ゲノムDNAを用いた分子集団遺伝解析の結果、ヨーロッパ産の植物と日本産の植物は明確に系統が分かれていました(図3)。この結果から、伊吹山の植物がヨーロッパから持ち込まれた系統であることは否定されました。また、伊吹山と北海道のイブキノエンドウの集団構造を調べたところ、伊吹山産と北海道産では系統は異なるが、かなり近縁であることが示唆されました。さらに、北海道の植物について「自生仮説」および「伊吹山からの持ち込み仮説」のモデルを構築し、集団分岐解析をした結果、「自生仮説モデル」が支持されました(図4)。これらの結果を踏まえて、この植物が牧草への混入や人為的な持ち込みに由来するものではなく、研究チームでは、日本の在来種であると結論付けました。

【イブキノエンドウの標本をおとなのディスカバリー(E展示室)に展示します】
 琵琶湖博物館では、12月5日(火)~24日(日)までの期間にイブキノエンドウの標本を展示します。
 イブキノエンドウは草地や林縁などに生え、5月~7月に淡い紫色の花を咲かせます。伊吹山にはカラスノエンドウやクサフジなども生えていますが、葉の形を見ると、区別することができます。


展示場所_大人のディスカバ.jpg 
植物標本をイブキノエンドウに
(大槻撮影)
展示する標本.jpg
伊吹山で採集されたイブキノエンドウ(標本)
(大槻撮影)



【論文情報】
タイトル:Phylogenetic, population structure, and population demographic analyses reveal that Vicia sepium in Japan is native and not introduced
著者:Ichiro Tamaki, Mizuo Mizuno, Tatsuo Ohtsuki, Kohtaroh Shutoh, Ryoichi Tabata, Yoshihiro Tsunamoto, Yoshihisa Suyama, Yusuke Nakajima, Naoki Kubo, Takeru Ito, Naohiko Noma, Emiko Harada* (*は責任著者)
著者所属:玉木一郎(岐阜県立森林文化アカデミー/岐阜県森林研究所),水野瑞夫(岐阜薬科大学名誉教授),
大槻達郎(滋賀県立琵琶湖博物館),首藤光太郎(北海道大学総合博物館),田畑諒一(滋賀県立琵琶湖博物館),
綱本良啓(東北大学大学院農学研究科(研究当時)、北海道立総合研究機構エネルギー・環境・地質研究所(現職)),陶山佳久
(東北大学大学院農学研究科),中島優介・久保直輝・伊藤丈留(滋賀県立大学環境科学部生物資源管理学科),野間直彦
(滋賀県立大学環境科学部環境生態学科),原田英美子(滋賀県立大学環境科学部生物資源管理学科)
掲載誌:Scientific Reports,オンライン掲載日:20231125日,
DOI:https://doi.org/10.1038/s41598-023-48079-4
※滋賀県立大学との同時リリースです。特に注記のない図版は、滋賀県立大学からのリリースに準拠しています。


問い合わせ先
研究・植物に関すること    滋賀県立琵琶湖博物館 主任学芸員 大槻 達郎 
Tel 077-568-4811       Mail: [email protected]
研究の方法に関すること   滋賀県立琵琶湖博物館 主任学芸員 田畑 諒一
               Mail: [email protected]
報道に関すること            総務部企画・広報営業課
Tel 077-568-4811      Mail: [email protected]

資料提供はこちら→20231130イブキノエンドウ論文公表.pdf